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第6話

Six.協力者
25
2026/02/19 23:22 更新
mf
篠崎しのざき教授が死んだらしいよ
rn.
じゃあ、彼がグリフォンだったんですか?

二人は学生室の隅で声を潜めて話していた。
mf
タイミング的に見て九分九厘間違いない
rn.
死因は何だったんでしょう?
mf
牡蠣かき中毒ってことらしいね
rn.
じゃあ、事件性は?
mf
多分ないって判断されると思う。もっとも、誰かが故意に傷んだ牡蠣を食べさせた可能性はあると思うけど
rn.
妙ですね。牡蠣を騙していたのは海象せいうちだったのに
mf
でも、実際に食べたのはグリフォンだった
rn.
偽海亀と海象は目撃者じゃないんですか?
mf
世間話をしているうちに偽海亀と海象はお互いの共通点に気づいて、意気投合してグリフォンを置いて二人で飲みに言ってしまったんだよ
rn.
一体あの二匹にどんな共通点があるっていうんです?
mf
あの日は二人とも非誕生日だったらしい

るなは溜め息をいた。
rn.
どうして、グリフォンは行かなかったんでしょう?
mf
残念ながら、あの日はグリフォンの非誕生日じゃなかった
rn.
誕生日だったんですね。不運な獣
mf
グリフォンもだけど、アリスも不運なんだよ
rn.
えっ?どうしてですか?
mf
ハンプティ・ダンプティに続いて、グリフォン殺しの疑いも掛けられてるから
rn.
ちゃんとアリバイがあります

ちょうどそこに欠伸あくびをしながらシヴァがやってきた。
sv.
やあ、お二人さん
rn.
どうしたんですか、シヴァさん。今日は随分と眠そうじゃないですか
sv.
昨日、夜遅くまで話し込んでたんだよ
rn.
夜遊びは程々にしてくださいね
sv.
夜遊びじゃないよ。ずっと家にいたしね
rn.
えっ?てっきり一人暮らしだと思ってました。実家から通ってるんですか?それとも、彼女?まさか、結婚してるとか......

るなは顔を曇らせて言った。
sv.
ないない。俺がモテるように見える?一人暮らしだよ
rn.
じゃあ、昨日はたまたまお客さんが来てたんですね

シヴァは首を振った。
sv.
違う。家族だよ
rn.
あなた、さっき一人暮らしだって言いませんでした?
sv.
ゲロ男は俺の家族だよ
rn.
ゲロ......えっ?
sv.
ほら、蛙ってゲロゲロ鳴くでしょ?だから、ゲロ男
rn.
凄いネーミングセンスですね
sv.
でしょ?中々いい名前だと思ってたんだ

るなは溜め息を吐いた。
rn.
とぼけたこと言ってるんですか?あなたが頼りないから厄介なことになってるんですよ
sv.
頼りない?俺が?
rn.
どうして『ずっとアリスと一緒にいた』ってアリバイ証言をしなかったんですか?
sv.
何のことかな?
rn.
グリフォンが殺されたんですよ
sv.
それは知ってる。不運な獣だよな
rn.
篠崎教授も死んだんです
sv.
そうらしい。死因も同じだね
rn.
グリフォンは篠崎先生のアーヴァタールだったってことですよね
sv.
状況から考えて恐らくそうだろうね
rn.
同じ犯人による連続殺人の可能性がありますよ
sv.
探偵もそう考えていたよ
rn.
探偵ってマッドハッターのことですか?
sv.
それと三月兎だね
mf
話の途中で悪いけど

もふが言った。
mf
俺、あき先生に用があるから、失礼させて貰うね
rn.
はい。もし、何か思いついたら、また教えてくださいね
mf
うん

もふは部屋を出て行った。
rn.
それで、マッドハッターは連続殺人犯を誰だと考えてるんですか?

るなは話に戻った。
sv.
もちろんアリバイだよ。まあ、ハンプティ・ダンプティ殺しの容疑者だから、疑って当然と言えば当然だけどね
rn.
でも、今回は完璧なアリバイがあります
sv.
それが本当なら、犯人は他にいることになる
rn.
他人事ひとごとみたいに言ってますけど、アリバイの証人はあなたなんですよ
sv.
それは有り得ない。あくまで俺は現実世界の人間だ。ワンダーランドで起きたことの証人にはなり得ない。なり得るとしたら、俺のアーヴァタールであるダムの方だ
rn.
じゃあ、あなたのアーヴァタールの責任ですよ
sv.
どんな責任があるって?
rn.
ダムにはアリスのアリバイを証言する責任があったってことですよ
sv.
つまり、どういうこと?
rn.
グリフォンが殺された当日、アリスとダムは海岸で相談をしていたんですよ
sv.
それは何となく覚えているね
rn.
そして、二人は海岸でグリフォンを目撃しました
sv.
それは覚えている。確か、偽海亀と海象もいた
sv.
聞いた話だと、偽海亀と海象もそれと同じ供述をしているらしい。海岸にはグリフォンとアリスとダムと牡蠣の子供たちがいたって
rn.
牡蠣の子供たちの証言も必要なんじゃないですか?
sv.
それは無理だな。グリフォンに食われちゃったから

るなは額を押えた。
rn.
可哀想ですね。そっちの方は立件されそうなんですか?
sv.
牡蠣を食べたからって立件?馬鹿なこと言わないでよ

シヴァは鼻で笑った。
sv.
そんなこと言ってたら、料理なんてろくにできもしないよ
rn.
でも、牡蠣の子供たちとリンクしていた現実世界の誰かにも死が訪れたはずですよ
sv.
それは多分、篠崎先生が食べた牡蠣とリンクしていたんだろうな。それで?
rn.
アリスとダムはそのまま二人で白兎の家に向かったんですよ
sv.
何となく覚えてるような気がする
rn.
何となくですか?
sv.
うん、何となく
rn.
信じられない。何となくってどういうことですか?
sv.
文字通りの意味だよ。ダムを見くびっちゃダメだ。あいつの記憶力はほぼ皆無に近いと言っても過言じゃない
rn.
......とにかく、アリスとダムは白兎の家に到着して、そこで白兎に話を聞いたんですよ
sv.
それも覚えている
rn.
そこにマッドハッターと三月兎がやってきて、『グリフォンが殺された』って教えてくれたんですよ」
sv.
そこも覚えている
rn.
ほら。完璧じゃないですか
sv.
何が?
rn.
アリバイですよ
sv.
そうかな?
rn.
これ以上、完璧なアリバイがあります?二人は生きているグリフォンを目撃した。そして、そのままずっと一緒にいて、グリフォンの訃報聞いた
rn.
アリスがグリフォンを殺すチャンスは全くなかったんですよ
sv.
ずっと一緒に?本当かな?
rn.
現に一緒にいましたよね
sv.
うーん

シヴァは自分の頭をこつこつと叩いた。
sv.
一緒にいたような気もするし、そうでないような気もする
rn.
何ですか、それ?
sv.
いや。二人で海岸にいてグリフォンを目撃したのは覚えてるし、二人で白兎の家にいたのも覚えてる。だけど、その間の出来事がどうも曖昧なんだ
rn.
曖昧も何も二人で森の中を白兎の家に向かったに決まってるじゃないですか
sv.
まあ、それが自然だろうね。だけど、そうでない可能性もある。アリスがダムに、『白兎の家で落ち合おう』って言って、そこで別れたのかも
rn.
そんな記憶があるんですか?

シヴァは首を振った。
sv.
全然ないけど?
rn.
だったら、そんなことなかったんですよ
sv.
そうとも言い切れないんだよ。何しろ、ダムは物凄く間抜けだから、いつも何かを見落としているんだ
rn.
そんな人と一緒に事件を捜査していて解決できるのかどうか、凄く不安になりますね
sv.
心配しなくていいよ。俺はダムみたいに間抜けじゃないから
rn.
でも、アリバイになる記憶はないんですよね?
sv.
双代ふたしろシヴァが存在しているのは、あくまで現実世界だけだからね
rn.
だったら、役に立たないじゃないですか
sv.
確かに、そうかもしれない。ところで、気休めになるか分からないけど、君に一つ教えておいた方がいいことがある
rn.
どんな気休めですか?
sv.
仮にダムが君のアリバイを完璧に記憶していたとしよう。でも、その場合も大して役に立たないんだな
rn.
どうしてですか?
sv.
ダムが間抜けなのは皆知ってるから、誰も本気で証言を取り合わないんだよ
rn.
どうでもいい気休めをありがとうございます
sv.
どういたしまして
rn.
とにかく、ダムの記憶も証言も役に立たないってことですから、新たな証拠を集めに篠崎先生の部屋に行きましょう
上山
本当にどうしたらいいのかしら?

上山宏子かみやまひろこじゅん教授は眉を八の字にしていた。
上山
篠崎先生が突然亡くなってしまうなんて、全くの想定外だわ
小幡
とりあえず、明日の葬儀に出席しなくてはなりません。それから、来月の学会の準備が必要です

小幡淳一おばたじゅんいち助教がメモを見ながら言った。
上山
まあ大変。葬儀に、それから学会もあるのね

上山准教授はますます眉を下げた。
小幡
あの、葬儀と学会は全然別のカテゴリーです。親族でもなんでもないので、葬儀には喪服を着て香典を持って挨拶に行けばそれで問題ありません
上山
そうなの?葬儀は問題ないのね
小幡
問題は学会の方です。篠崎先生は招待講演をされる予定でした
上山
どうすればいいの?断ればいいの?それとも、誰かが代理で講演する?
小幡
招待されたのは篠崎先生なので、勝手に代理を立てるのはおかしいかもしれません。学会の事務局に問い合わせてはどうでしょうか?
上山
どう答えると思う?
小幡
さあ、どうでしょう。篠崎先生と同じクラスの別の方を新たに紹介されるのかもしれませんし、こちらに代理講演を依頼してくるかもしれません
上山
代理講演を依頼されたら、どうすればいいの?
小幡
上山先生が代理講演をされるのが順当なんじゃないですか?
上山
私が?一体どうすればいいの?!
小幡
落ち着いてください。篠崎先生はパワーポイントで既に資料を作っておられたかもしれません。秘書の御園みそのさんに訊いてみましょう
上山
もし作ってなかったらどうするの?
小幡
既に予稿は提出されているようですから、それを元にプレゼン資料をでっち上げれば良いんじゃないですか?
上山
そのでっち上げは誰がするの?
小幡
構成を考えれば、御園さんが何とかしてくれると思います
上山
その構成は誰がするの?
小幡
先生がされるのが一番だと思います
上山
えっ?

上山准教授は目を瞬いた。
小幡
構成されますよね
上山
あ......、ああ。そうするのがいいわね。でも、まああなたも考えておいて。私はほら、忙しいから

るなは咳払いをした。
上山
そうだわ。まずあなたが原案を考えてよ。私がそれを見て、修正案を出すから

上山准教授はるなの咳払いには気づいていないようだった。
sv.
ぶえっくしゅっ!

シヴァが大きなくしゃみをした。

上山准教授はちらりと横目で一瞥いちべつした。だが、特に気にしていない様子だった。
上山
事務局への連絡は誰がしてくれるの?あなた?それとも御園さん?
sv.
ぶわくっしゅん!ぶふぇっくしょ!!

シヴァは二度続けてくしゃみをした。

上山准教授の言葉が止まった。そして、今度はシヴァをはっきりと見た。
上山
何?風邪?
sv.
誰かに噂されているのかもですね

シヴァはにこやかに言った。
上山
移さないでね。私、忙しいのよ

そして、小幡助教に向かって言った。
上山
この子、何年生?
小幡
さあ
上山
さあって何?自分のゼミの学生の学年も分からないの?
上山
この子たちは篠崎先生のゼミの学生じゃありませんよ
上山
えっ?違うの?......この子たちって?

上山准教授は初めてるなの存在に気づいたようだった。
上山
誰?あなたたち?
sv.
こちらは秋山あきやまゼミの栗栖川くりすがわさんです。俺は柳沢やなぎさわゼミの双代です
上山
あらそう。うちの学科の学生なのね。誰か友達を捜しに来たの?
sv.
そうではなくてですね。篠崎先生のことをお伺いしたいと思いまして
上山
篠崎先生は死んだわ
sv.
知ってます
上山
それ以上言うべきことは何もないけど
sv.
先生の死因はご存知ですか?
上山
牡蠣の食べ過ぎって聞いたけど
小幡
上山先生

小幡助教が口を挟んだ。
小幡
食べ過ぎた訳ではありません。食中毒です
sv.
何か不審な点はなかったんでしょうか?
上山
どういうこと?
sv.
牡蠣にあたったのが偶然だったのかということです

シヴァはいきなり核心を突く質問をした。
上山
ますます訳が分からないわ
小幡
誰かに牡蠣を食べさせられたということではないですか?
上山
傷んだ牡蠣を無理矢理篠崎先生に食べさせたってこと?まあできないことはないでしょうけど、そんなことされたら普通吐くでしょ
上山
そもそも誰がそんな嫌がらせをするの?
sv.
嫌がらせではなく、殺人です
上山
殺人?!牡蠣を食べさせて殺人?!いくらなんでもそんな手の込んだ殺人はないでしょ
小幡
手が込んでいる割には不確実ですしね

小幡助教も信じていないようだった。
sv.
確かに信じ難い話ですよね

シヴァは堂々と言い放った。
sv.
でも、ここではないどこかなら、それは普通のことなのです
上山
ここじゃなかったら、どこだと言うの?
sv.
どこだと思いますか?

シヴァは上山准教授の目を見つめた。
上山
どこかしら?

上山准教授はシヴァの目を見つめ返した。
sv.
思ったまま答えてください
上山
きっと外国ね。何か牡蠣に関する迷信がある国だわ......。ちょっと待って、どうして私がそんなクイズに答えなくっちゃならないの?
sv.
俺はトゥィードル・ダムです。さあ、何か心当たりはありませんか?

一瞬、上山准教授の顔色が変わったように見えた。
上山
何?トイードル?何かのクイズ?それともただの悪ふざけなの?私は今忙しいの。ドッキリの真似事だったら、別の人にして頂戴
小幡
ちょっと待ってください

小幡助教が言った。
小幡
おかしいな。変なことを思い出してしまった
sv.
何ですか?
小幡
ドードー
上山
馬をなだめているの?
小幡
そうじゃなくて、私の名前です
上山
あなた、小幡ドードーなんていう名前だったの?
小幡
いや。ドードーはここではなく、どこか別の場所での名前です
上山
外国?
rn.
同じ場所を走り回って服を乾かすんですよね。あなたが言っていた方法ですよ
上山
誰の服が濡れてるって?

上山准教授が苛立たしげに言った。
小幡
今はもう濡れていません......。いや、多分あれはただの夢だ
sv.
夢ならどうして俺たちが知っているんでしょうか?
小幡
これも夢だからだ
上山
これが夢の訳ないでしょ。少なくとも、あなたの夢じゃないわよ。可能性があるとしたら、私の夢ね
上山
でも、多分違う。夢の中で夢だと気づいたら、大体目が覚めてしまうもの
sv.
現実世界の人間とワンダーランドの人物はリンクしているんです。俺たちはこれをアーヴァタール現象と呼んでいます
sv.
小幡さん、篠崎先生はグリフォンでした。というか、ワンダーランドにおける篠崎先生のアーヴァタールがグリフォンだったと言うべきでしょうか
小幡
まさか。何か証拠でもあるのか?
sv.
証拠は......ありません。あるとしたら、俺たちの記憶です
上山
『あなたの夢は現実です。証拠は私の夢です』と言いたい訳ね

上山准教授は鼻で笑った。
sv.
信じられないかもしれませんが、俺たちの話をじっくり聞いて貰えば納得できると......
上山
待って!

何かを思い出したように上山准教授の目が輝いた。
上山
覚えているわ!
sv.
ワンダーランドのことを思い出したんですね
上山
覚えてるというか、夢なんだけどね。実際に体験したこととは全然違うわ
sv.
どんな夢でした?
上山
どうもはっきりしないんだけど、騎士団長だか、騎士兵長だかって呼ばれていたような気がするわ
sv.
騎士隊長!
rn.
騎士隊長!
小幡
騎士隊長!

シヴァとるなと小幡助教が同時に言った。
上山
そう。騎士隊長だったわ
sv.
騎士隊長って男性じゃありませんでした?
上山
夢の中で性別が変わることくらいたくさんあるでしょ

上山准教授はむっとしたように答えた。
rn.
騎士隊長って確か、ハートの女王の恋人でしたよね
上山
馬鹿言わないで頂戴!あんな奴の恋人なんて真っ平ごめんよ。私はあいつを利用しているだけよ
sv.
結構覚えているじゃないですか?
上山
本当に覚えているのかしら?あなたたちと話しているうちに思い出したような気がしただけかもしれないわ
sv.
じゃあ、今度はワンダーランドで騎士隊長に話し掛けてみます
上山
それだけは辞めて。ええと、あなたはトゥウィードル・ダムだったわね
sv.
ええ
上山
そして、小幡さんはドードー
小幡
ええ
上山
それで、そっちの子は?
rn.
るなはアリスです
上山
そんな訳の分からない連中に話し掛けられて、騎士隊長が返事なんかできる訳ないでしょ
rn.
現実世界での関係から言うと、そんなに不自然じゃないですよ
上山
いいえ。向こうでは向こうの関係を尊重して貰うわ。さもなければ、女王に示しが付かないもの
rn.
女王のことが気になるんですか?
上山
もちろんよ。あいつは私が貶めてやるわ
rn.
向こうはあなたのことを臣下だとしか思ってないですよ
上山
だからその内が絶好のチャンスでしょ
rn.
自分が騎士隊長だと認めるんですね
上山
ええ。依然として、単にそんな気がするだけの錯覚だっていう疑いは晴れないけど
sv.
とりあえず、暫定的にワンダーランドは実在すると仮定してみてください
上山
どうして、そんな仮定が必要なの?
sv.
グリフォンの死因が知りたいんです
上山
グリフォンは知らないけど、篠崎先生は病死よ。これは間違いないわ
sv.
王子おうじと何か繋がりはありませんでしたか?
上山
王子?誰?
rn.
この間、墜落死した四年生です
上山
ああ。そんな事故があったわね
sv.
王子はハンプティ・ダンプティでした
上山
あの卵の?彼は殺されたって聞いたけど?
sv.
それは恐らく間違いありません
上山
そして、犯人は......

上山准教授はるなの方を見た。
上山
アリスだってもっぱらの噂だわ

るなは頷いた。
rn.
そして、グリフォン殺害の容疑まで掛けられています
上山
もしグリフォンが殺害されたのだとしたら、疑われるのは当然よね。既に一人____というか、一個殺してる訳だし

るなは首を振った。
rn.
アリスは殺していません
上山
それを証明できるの?
rn.
今のところはできません。だから、こうやって調査しているんです
上山
調査も何も王子は自殺が事故だし、篠崎先生は病死よ。そもそも事件性はないわ
sv.
現実世界ではそうです。しかし、ワンダーランドではそうではない
上山
だったら、調査はワンダーランドでやるべきでしょ。夢の中の犯罪の証拠が現実に存在する訳ないもの
sv.
単なる夢ではありません。実体のある夢です
上山
実体?そんなものがどこにあるというの?
sv.
我々の記憶です
上山
記憶?私が言ってるのは、そんな曖昧なものじゃなくて、物的な証拠よ
sv.
証言もまた証拠の一つですよ
上山
どこかの裁判で『夢の記憶』が証拠として採用されたことがあって?
sv.
それは......
上山
確かにあなたたちの言うことには、思い当たる節があるし、仮説としては面白いわ
上山
だけど、夢は夢よ。いくら記憶があっても、現実とは何ら関係ない。そんなことは忘れて、現実を生きればいいのよ
sv.
ただの夢として、忘れろと?
上山
それ以外、どうしろというの?夢の世界の殺人罪であなたを訴えろというの?

上山准教授はるなを指差した。
rn.
るなもアリスも犯人ではありません
上山
そうだったわね。でも、そんなことはどっちでもいいわ。夢の中の話だもの
sv.
現実と無関係ではありませんよ。王子とハンプティ・ダンプティ、そして篠崎先生とグリフォン。この二つの死はリンクしている
上山
後付けよ。そもそもその二組が本当にリンクしていたのかどうかも怪しいわ
sv.
少なくとも、王子とハンプティ・ダンプティのリンクは明らかでした
上山
どうして分かったの?
sv.
本人がそう言っていました
上山
本人はもう死んでるわ。死人に口なしね。さっきの話ぶりだと、篠崎先生の方に至っては完全に推測よね
sv.
推測だと言われれば、そうだとしか言いようがありませんが......

シヴァは唇を噛んだ。
上山
じゃあ、推測よね
sv.
もし、アリスが二人の殺人容疑で処刑されたりしたら、栗栖川さんの命が危険です
上山
知ったこっちゃないわ。現実世界での出来事なら、多少は関係あるかもしれないけど、夢の世界の殺人事件をまともに取り合う人間なんていない
上山
じゃあね。私はこれから小幡さんと打ち合わせがあるから帰ってくれる?
小幡
ちょっと待ってください、上山先生。助けを求めているのに、無下にするのはあんまりじゃないですか。それに、この子の命が懸かってるということですし
上山
じゃあ、あなたが何とかしてあげて。もちろん私の仕事が優先よ。それが終わってからなら何をしようと自由よ
小幡
じゃあ、今日の五時以降に話を聞かせて貰おう
上山
駄目よ。そんな暇と余力があるなら、私を手伝って。葬儀と学会で大変なんだから
小幡
でも、先生の仕事が終わってからなら手伝ってもいいと......
上山
私の仕事は全然終わってないわ。少なくとも、来月の学会が終わるまではね。もっとも、それからの仕事も山積みだけど
小幡
それじゃあ、この子たちを助けることができない
上山
そうなるわね。さあ、さっさと資料作りを始めて頂戴
rn.
待ってください!

突然、るなが叫んだ。
rn.
あなたにも関係があることです、騎士隊長!
上山
現実世界では騎士隊長じゃないわ
rn.
あなたは女王からあの庭の管理を任されています
上山
女王に命令されてやった訳ではないわ。私は好意でやってあげているだけよ
rn.
だけど、殺人事件が起きるという不始末をしでかしてしまったのです
上山
全く私の関与するところではないわ
rn.
でも、女王はそう考えないかもしれません
上山
何ですって?!
rn.
女王はあなたの責任だと考えて叱責するでしょう。もしかしたら、斬首刑にされてしまうかも
上山
あれは女王の口癖だから、実際に斬首が実行されたことはないわ
rn.
では、もし調査に協力して頂き、事件が解決できれば、それをあなたの功績だと報告しても構いません
上山
あら、そう?

上山准教授の表情が緩んだ。
上山
少し話をするくらいなら、特に問題はないかもしれないわね
rn.
現実世界で時間がないとのことでしたら、向こうの世界でお話を聞かせて貰っても構いませんが
上山
騎士隊長が下賎げせんの者と親しげにしたりしたら、それこそ女王が不審に思うわ
上山
今ここで、話をしましょう。そして、それっきりでお願いするわ。何度も同じ話を繰り返すのはうんざりだから
rn.
もちろん、それで構いません。じゃあ、シヴァさん、お願いしますね
sv.
えっ?俺が訊くの?
rn.
悔しいですけど、分析力も直感力も、るなよりあなたの方が上ですよ。だから、あなたにお願いするのが得策だと思うんです
sv.
ダムの時に言ってくれれば、小躍りして喜ぶんだけどね
rn.
言わないですよ。そもそもダムにはこんなことお願いしないです。彼には無理なので

シヴァは肩を竦めた。
sv.
じゃあ、先生、少しだけお話をお伺いします。最近、篠崎先生に関して何か気になったことはありますか?
上山
特にないわ。敢えて言うなら、最近また少し太ったことくらいかしら?
sv.
そう言えば、篠崎先生は肥満体型でしたね
上山
そうね、物凄く太ってたわ。牡蠣に当たらなくたって、きっと脳梗塞か心筋梗塞で逝ってしまったんじゃないかしら?
上山
王子って人より、むしろ篠崎先生の方がハンプティ・ダンプティに相応ふさわしいくらいだわ
sv.
本人とアーヴァタールの間で、体型や性格は必ずしも一致しないようです
sv.
王子さんとハンプティ・ダンプティはかなり似通った特徴を持っていましたが、グリフォンと篠崎先生はそうでもなかったということでしょう
上山
あなたとダムもあんまり似てないわよ
sv.
ありがとうございます。褒め言葉と取っておきます。......次の質問です。篠崎先生は王子さんについて何かおっしゃっていましたか?
上山
特に何も言ってなかったと思うわ。そうよね、小幡さん
小幡
はあ。私も特に記憶には残っておりません
sv.
そうですか。ええと、向こうの世界で、グリフォンやハンプティ・ダンプティとは面識がありましたか?
上山
グリフォンなんて怪物とは全く縁がないわ。ハンプティ・ダンプティには一度か二度、会ったことがあるとは思うけど、特に言葉を交わしたりはしなかったわ
上山
もし何か言いたいことがあったとしたら、白兎を介したはずよ
sv.
白兎とは親しいのですか?
上山
親しいと言えば親しいのかしら?まあ、自分があいつにどんな感情を持ってたかはよく覚えてないけど、召使いとしては結構使えるんじゃないかしら?忘れ物は多いけど
sv.
忘れ物が多かったら駄目なんじゃないですか?
上山
メアリーアンがフォローをしてくれるから大丈夫よ。彼女は結構使えるわ
sv.
知り合いの中にワンダーランドの住人らしい人物はいますか?

上山准教授は首を振った。
上山
全然。もっとも、そういう目で見ていなかったというのもあるかもしれないけど
sv.
現実世界の白兎と会ってみる気はありますか?
上山
真っ平ごめんよ
sv.
どうしてですか?向こうでは親しいのに?
上山
こっちと向こうの関係性が微妙に違うとぎくしゃくするかもしれないじゃない。例えば向こうでは主従関係があるのに、こっちではただの友達だったりしたら、どう接していいか分かる?
上山
あなたたちみたいに元々関係が薄ければ逆に問題は起こらないのよ
sv.
我々と一緒に捜査をする気はないですか?
上山
ないわ。私は忙しいの。夢の世界の殺人事件なんか、どうだっていいわよ
sv.
騎士隊長としてはどうですか?
上山
事件が解決したら、女王に騎士隊長のお手柄だと言ってくれるんでしょ?ちゃんと約束は守ってね
sv.
騎士隊長がご自分だという認識はお持ちなんですね
上山
自分と言うよりは、自分の延長って感じかしら?記憶はあるんだけど、意識の連続性は曖昧だわ
sv.
他に何か思い出したことはないですか?

上山准教授は少し首を傾けた。
上山
ないわ。これで全部よ
sv.
何か思い出したら、連絡頂けますか?
上山
しないわ。そんな暇はないって言ったでしょ。多分、何も思い出さないでしょうし
sv.
分かりました。そういうことなら結構です。ただ、捜査の結果、何かが分かった場合、お知らせしてもいいですか?
上山
そうね。それなら別に構わないわ。その時は連絡して頂戴。できればメールでね。電話に出る気は無いから

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