地図アプリを頼りに、マサヤの家へ向かう。ぼんやりする頭で美都は考えた。
つい半年前まで、マサヤの存在すら知らなかった。
そんな相手に、自分は今から会いに行く。自分の意思で。
白のカットソーに、黒いスカート。
持ち物は、斜めがけの黒いショルダーバッグ。
地味すぎただろうか?
それよりも……。
左頬の傷に触れ、美都は思った。
美都は建物を見上げる。
着いたのは、どこにでもある一人暮らし用の二階建てのアパート。
日曜日の朝だからだろうか。人の気配は感じられなかった。
できれば、誰にも知られたくない。
今日、自分がマサヤに会いに来たことを。
再びスマホを操作すると、マサヤのアイコンを確認する。
そして美都は、そのアイコンを撫でた。
※
マサヤの部屋の前に着くと、美都はダイレクトメールを送った。
インターホンを鳴らすほうが早い。けれど美都は、マサヤをより近くに感じたいと思った。
──ガチャ
美都が右耳に髪をかけるのをマサヤはじっと眺めている。
美都はとっさに、バッグを背に隠す。
そう言ってマサヤは背を向けた。
美都はショルダーバッグから果物ナイフを取り出す。
そして、マサヤの背中に向かって、勢いよく振り下ろした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!