「全能の神」トールと「幻影」に殺され、「転生」してきた朔間剛史が旅立ってから一週間。
しかしサクマは特に何の進展も得られず、トールは呆れたように大きくため息をつき、
トールはカチンと頭に来たが、あくまで平静を装いつつ震えた声で言った。
そう。サクマがいつまで経っても強くならない理由。それがこれだ。何でも、転生していきなり「力」を授かった所で使い方がわからないらしい。
だが、そんな事はもうとっくに知っていた。何故なら、前にも今日と「全く同じ事」を説明していたからだ。
と、ぼやくサクマに対し、
トールは思いついたように言う。
そう叫ぶサクマの眼は、決意を硬めたように、
真っ直ぐに輝いていた。まるで、
走り出すかのように。強くなろうとする意思を、その瞳に強く感じた。
トールは自分と反対方向を向き、即ち、背中側を向き、「誰か」を呼ぶ。その「誰か」は「次」の合図を待っているように、今にも飛び出しそうな地面スレスレの前傾姿勢で待機している。
右足を軸にして左足を引き、腰を捻って五◯メートル走の構えを取る。更に次の合図を掛ける。
途端、トールの遥か後方から物凄い勢いで何かが突っ込んできた。いや、「誰か」と言った方が正確だ。その「誰か」は地面につきそうな勢いで水平に翔ける。右手は胸の前で拳を握り、左手は腰辺りで風を切る役目を担っていた。まるでロケットか弾丸か、ミサイルの如く飛んで来た「誰か」は、蒼く輝く光線を引いて、そのまま高く飛び上がり、前方にくるくると二回転半して、垂直に着地。
ズザーーッ!という音と共に、土砂や石を跳ね上げ、徐々にブレーキを掛けて停止した。その「誰か」、ワルキューレは転生者、サクマ・ツヨシを鋭い眼差しで見続けた。
呆けたようにそうつぶやくサクマに右手の人差し指を指して、トールは呆れたように言った。
サクマは強くなるため、ワルキューレに稽古をつけてもらっていた。剣や拳の振り方、蹴り方や基本的な動き方など、戦闘に於けるあらゆる「基礎」を叩き込んでくれていた。この世界に於いて無力なサクマにとっては、大きな体験となった。
ガキン!と、金属同士がぶつかり合い、衝撃音を響かせる。サクマは剣を構え、中段左に薙ぎ払い、斜め右下から切り上げ、斜め左上に向かって斬りつける。剣を上段に構え頭から振りかぶり、真っ直ぐに振り下ろして一閃する。が、しかし
ワルキューレには一撃も通用しなかった。掠り傷すら、付いていなかったのだ。もしかして、これも「権能」の力なのか?と思った時、ワルキューレは言った。
ふと疑問に感じ、質問してみる。ワルキューレが口に出した「"私達”」と言う言葉。私”達"と言う事は、他にも「神」がいる。と言う事なのだろうか?そして、「王」と言う存在。それが具体的に「"何の王”」なのかが解らない。
そしてワルキューレは答える。
そして、サクマは「王」について聞いた。
しかし、ワルキューレの口から出た「王」の人物像はサクマのイメージとは真逆だった。
ワルキューレは、
と、眉間に皺を寄せ、苛立ちを感じさせるような表情で告げた。その一言がサクマの心に、魂に熱く燃える炎を灯した。
こうして、ワルキューレを新たに仲間に迎え、改めて「世界の王」を倒す事を目指して、サクマは再出発した。そして、この世界のまだ見ぬ道の先で、残り18人の神々と出逢う事になる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!