コミックマーケットのイベントブースでは、アニメや漫画の読者視聴者が集まってワイワイガヤガヤと喧騒が聞こえてくる中、目当てのイベントを周り、欲しかったグッズを買い終え、自宅へと帰る途中で朔間剛史は「闇」に包まれた、謎の人間を見た。いや、「謎」と言うより、それはもう「自分」にしか見えなかった。そして、その姿形もサクマにしか視ることが出来ないようだった。
どうやらサクマの「幻影」ということらしい。幻影はサクマを見てニヤリと笑う。サクマはその幻影に、
言うと幻影は相変わらずニヤニヤ笑い続けているが、それでいて「無」であるようにも思えた。無、「無感情」の「無」、「無感心」の「無」、この心無い影にはこう言った表現が似合う。しかし、反応が薄過ぎたせいか、サクマはさらに問いかけようとするが、
恐怖と怒りに駆られ、つい先走ってしまった。と思ったその時。
…
「闇」サクマの発言に衝撃を受け、立ちすくむサクマ。――しかし、そこで退いたりなどは一歩もしたことはなかった!!だから、こんな偽物には何を言われようと何されようと、絶対譲れねェんだよ!!――
不気味に笑う「闇」サクマを圧倒するように強く念じ、負けない。負けない。負けない!負けない!!負けない!!!と、心の中で唱え続ける。
幻影の言うことに戸惑いを覚え、「闇」サクマの言っている事に対し、それが正しいのか、間違いなのかがわからないくらいの不審な気持ちがサクマの頭の思考回路を横切る。「闇」サクマはサクマの肩に両掌を掛けてそのまま、
は!?わけわかんね!と、言い切る前に幻影が肩に掛かった手により一層、力を込め、そこから「闇」の膜が現れ、その膜が朔間剛史の身体を包み、「闇」サクマは「闇」に融けて消え、気がつくと何処かの建物の屋上の、淵に、立っていた。
再び「闇」サクマが出現し、直前までの肩に掛かった掌もより強く、深く、食い込んでいた。
その手を離すと同時、サクマは、
と聞こえた時にはもう、地上何十メートルもある高いビルの屋上から、まるで空気に寝そべるように、天空から落下し、―――――死んだ。
意識が戻ると、どこを見回しても全く見憶えのない風景、建物、洞窟や王宮みたいなものが存在するため、一瞬この世の物では無いかのようにも思ったが、
朔間剛史は死んだ。
今更生きている筈がない。と、思った時。偶々見つけた姿見で鏡に映った自分を見る。
そこに映ったのは、これまでのサクマの面影など、微塵も存在しなかった。
確かにサクマは死んだはずだ。しかし、そこに映った
サクマの姿は、手足には、純金の篭手やブーツ。胴体には高貴な鎧に身を包み、頭は金髪に染まり、肩からは純白のマントを下げている。
これが自分の姿だとは到底思えない。
というかこの世界がもう疑わしい。
俺は死んで、目覚めて、気がついたら何故かこの場所にいた。なんか、見たことないモノばかりあるから、夢、天国、ではないか・・・と、考え込んでいると、一つの事実に思い至った。
と、自問自答しつつサクマは、自分がどういう「人」として生まれ変わったのか、まだわからなかった。そんなサクマの心を見透かしているかのように眼前に雷を纏った、「神」の姿が現れた。日本神話にも出てくる「雷神」にもよく似ているが少し違う。と言うか、違いすぎる。頭から生える髪の毛は静電気によって逆立ち、眼を見開き瞳孔から白い稲妻のごとき光を放ち、全身が雷に覆われたような、そんな印象だった。
トールと名乗った「全能の神」は、両掌を掲げ、そこから雷で生成された、白い光球が出現した。
光球は眩く発光し、サクマの身体を包んだ。
サクマはトールの言うことに疑問を抱く。
「闇」サクマも同じ事を行っていたからだ。
なら何故そんな事を聞くのか?と思い聞いてみることにした。
サクマを殺したあの幻影が人を欺ける嘘つきなら、奴に負けないように俺も強くならなくては、と、強く心に刻みつけた。そして、サクマ・ツヨシは強くなるため、旅に出る事に決め、トールと共に、その場を去っていった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。