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第97話

本当の名前。《番外編》
300
2021/01/15 14:51
俺は気づけば鬼だった。
なぜ気づけば、なのか?俺だって知りたい。
気づいたら鬼だった、それしか分からない。
けど悪い気はしなかった。
だって死なない、老いない、怪我がすぐ治る。
いい事しかないじゃないか。
あ〜でも強いて言うなら、朝日に体を出せないことと…人間以外食べられないことが難点だな。
それ以外はとても快適な生活を送れていた。

人間に襲われた。
殺されそうになった。
だから殺した。
そこから、俺の平和はなくなった。
殺されそうになる日々が続いた。
俺は死にたくない。
殺されたくないから戦う術を模索した。
気づいたら、変な術を使えるようになった。
後に言われる"血鬼術"だった。
俺に敵はいなくなった。無敵、神になった気分だ。
ああ、俺にはちゃんとした名前がなかった。
どんな名前にしよう。
1つ、すぐに思いついた。神のような名前がいい。

神代 敢

神の代わりになる、遠慮はしない。

そんな意味を込めた。
名前を決めてからだろう、更に強くなった気がする。
ある日、俺の人生を狂わせるやつが現れた。
もぶ
もぶ
おい、鬼
神代敢
神代敢
ん?誰だい?
もぶ
もぶ
尼宮の名において、お前を斬り捨てる
尼宮だ。
神代敢
神代敢
尼宮ァ?聞いたことない名前だな
もぶ
もぶ
こう言えばわかるか、鬼狩りだ…!
神代敢
神代敢
!!
強かった。とてつもなく、強かった。
でも、所詮は人間。手に余るほどではなかった。
もぶ
もぶ
はぁ………はぁ………、げほ…っ……かは……っ
神代敢
神代敢
いい加減死んでくれよ、尼宮サン
もぶ
もぶ
雪の呼吸…………
神代敢
神代敢
ん?
なんだ、まだ動けるのか?
もぶ
もぶ
拾壱ノ型…!!
何故か俺に血液を飛ばす。
俺は鬼なのに、意味がないのに。
なんだって言うんだ?
よけることなくいると、それは俺の衣服に着く。
もぶ
もぶ
っ…白鷺天花…!!!!
そう唱え、握りしめた拳を開いた瞬間。
俺の衣服に着いた血液が刃となり俺の体を貫いた。
俺の心の臓が氷漬けにされた感覚に襲われる。
神代敢
神代敢
…!!??…ぐ……ぁ…!……おい………お前………!!!!俺に………俺に何をした………!!!!
もぶ
もぶ
雪の呼吸…受け継ぐ事のない……秘術・白鷺天花……。どんな………炎でも、溶けることのない、氷だ……。それでお前の心の臓を凍らせた……。お前の寿命を少しずつ削っていく……。ざまあ、みろ……
俺の寿命を…………削る………?
不老不死となった俺が……寿命に、恐怖………?
神代敢
神代敢
ふざけるなァ!!!!!!
さっきの血液が原因ならは、再び取り込めば治るのでは。試してやる。
そいつの頸を刎ね、切り口から血を飲むが心臓の氷が溶けることはなかった。
血液を操る人間だなんて、聞いたことがないぞ!!!
何なんだ、この人間は!!!!

……尼宮と、言ったな……。

そこからは簡単だった。尼宮と言う家を探して、親しくなろう。こいつらは単純だ。
特に才能に恵まれていない、心の弱そうな人間は。
あの時の女と同じ、若くして白髪の人間は何人かいた。なるほど、こいつらは強いのか。
だからコソッと、心の弱い奴に伝えた。
俺は霊能力がある、なんて言えばあとは簡単だ。

"気をつけろ、白髪の子は鬼になる…。三十になれば鬼として完成してしまう。その前に、頸を刎ねるんだ"

呆気なかった。鬼になるわけがない、有り得ない。
でも奴らはそれを信じた。三十になった奴らは全員殺された。気分がいい。
何か知っていそうな奴に話を聞いた。
神代敢
神代敢
尼宮は、血液を操れるのか?
もぶ
もぶ
操れるのはごく限られた天才だけさ
神代敢
神代敢
……そうか
色んな奴らに声をかけては、相談した。
けど、誰も俺の期待に答えられるような奴は現れなかった。寧ろ俺を殺そうとするから、殺した。
でも皆殺しにはしない。当たり前だ、俺はそこまで馬鹿ではない。
いつか俺の心の臓の氷を溶かす奴を見つけるまでは、殺さない。溶かしてから、殺す。

最近血鬼術が使えても、1人だと複数人相手にするのは辛かった。俺に従うやつを探すことにした。
5人見つかった。


両親の復讐に身を委ねた、どこにでもいる子。

義賊をしながら暮らしていた、双子。

年老いて寿命尽きるのを恐れた、尼宮の老人。

愛した男を女として愛されたかった、男。

戦場で雇い主に裏切られ殺されかけた、傭兵


神に仕える鬼になるんだ、立派な名前じゃないと。


京楽の苦痛のなく生きる、天界道

本能のまま生きる、畜生道

肉体的・精神的に苦悩し生きる、人間道

飢えと欲望に生きる、餓鬼道

戦いに明け暮れ生きる、修羅道


嗚呼、1人足りないな?それなら、俺で補えばいい。
簡単にバレては面白くないだろう?

重い罪を犯し生きる、地獄道

俺の本来の姿はこいつらには見せない。
見せたらすぐに裏切るからな。
色んな姿で惑わす。鬼は何にでもなれるから便利だ。
俺が外道と呼ばれようが知らない。
これで俺の心臓を治すやつを探し出す。

そして見つけたんだ。
貴女
貴女
……
君を。なあ、あなた。
お前には色々やってあげたじゃないか。
簪だって贈りあった。
互いに切磋琢磨しあった。
お前のことだって、助けてあげたじゃないか。
何がいけなかったんだ???
俺が、わざわざ、お前を、可愛がってやったろ?
お前まで使えないやつだとは、思いもしなかったよ。
殺そう、俺の氷を溶かしてから殺そう。

でもお前は強かった。
今まで殺してきた尼宮の人間の中で、一番強かった。
何故こんなに強いんだ?答えはすぐに出た。
今までの尼宮の人間にはない、優しさがあったから。
お前は優しかった、とても。
だから扱いやすいと高を括った。
優しいからこそ、俺はお前を甘く見た。
それが運の尽きであり、敗因。
それがお前を、強くした要因。

俺は頸を落としても死なない身体にはなった。
が、それは別の鬼狩りによって殺された。
何十年……何百年……頑張ったのに、終わりがこれか。
呆気なかったな……。

でもさ、あなた…。
もし、あの時……俺が鬼にならずに…お前と出会っていたら…俺は変わらずに済んだのか……?
そしたらその時は、俺の本当の名前を…教えたいな…。





あれ?










俺の本当の名前って










なんだっけ…









〜完〜

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