街灯の下。
少し冷たい空気。
時計を見る。
19:58。
足先が冷えて、
コートの袖に手を引っ込めた、その時。
聞き慣れた声。
振り向くと、
少し離れたところに立ってる人。
黒いコート。
あの目。
タクトさん。
小さく笑うと、
タクトさんも、ほんの少しだけ口元を緩めた。
並んで歩き出す。
沈黙が、気まずくない。
足を止めて、
公園の奥を見つめる。
忘れるわけがない。
リング。
この指輪に、何度も救われた。
触れるたびに、思い出す。あの夜も、今も。
タクトさんは少し考えてるみたいに
ゆっくり言う。
タクトさんの視線が少しだけ、落ちる。
最後のひとことに
胸の奥が、締め付けられる。
小さく首を振る。
正直に言ってやった笑
タクトさんが、驚いたように顔を上げる。
タクトさんは何も言わず、ただ、少しだけ息を吐いた。
短いけど、
その一言に、いろんな感情が混ざってるのが分かる。
夜の空気が、
さっきより少しだけやわらいだ気がした。
ベンチに腰掛ける。
少しだけ間があって
視線を逸らして、続ける。
視線が戻ってくる。
胸の奥が、静かに熱くなる。
またすぐに視線が逸らされて、横顔しか見えなくなる。
けど、
その顔は本当に綺麗で、儚くて…
一度、息を吸う。
タクトさんの瞬きが一拍遅れる。
でも、すぐに柔らかく笑って、
体ごと向き直る。
急かさない。
でも、ちゃんと受け取る目。
紙袋を差し出す。
タクトさんはゆっくり受け取って、
丁寧に包みを開く。
バングルを見た瞬間、
ほんの一瞬、手が止まったように見えた。
タクトさんがゆっくり、
指でバングルをなぞる。
無地の、まっすぐなバングル。
その声が低くて、甘くて、
胸の奥が、音もなく崩れた。
タクトさんは、
そっとバングルを手首に通す。
まだ、慣れない動き。
一瞬、
タクトさんが照れた。
ほんの一瞬。
でも、それが
何より嬉しかった。
落ちた髪を、
タクトさんがそっと耳にかけてくれる。
たったそれだけの行動と時間が
映画みたいにゆっくりに映る。
そう言った瞬間の目が、
かすかに照れてるのに、
でも“覚悟”みたいなのが見えて、
タクトさんはコートのポケットから
小さな黒い箱を取り出して、
手ごと包み込むみたいに、そっと置いた。
開けると、
見たことある形のバングル。
タクトさんは少し照れたように、笑いながら
私の腕にはめてくれる際に、
そっとなぞられる、内側の刻印。
《I’m yours, You’re mine》
言葉が、出ない。
タクトさんは、固まってる私を見て、
少しだけバツが悪そうに笑って、
今度はゆっくり、バングルの刻印をなぞる。
私がうなずくのを確認した後、
ほんのちょっとだけ照れたように視線を逸らす。
静かな声。
なのに、胸の奥が高ぶってしまって
勢いのまま、
タクトさんの胸に顔を埋めた。
ぎゅっと、抱きしめられる。
耳元で、低く。
ぎゅっと抱きしめられたまま
タクトさんのコートの裾を、そっと掴む。
優しい声に一瞬だけ、言うの迷ってしまう
でも…
言いたい
タクトさんの腕の力が、少しだけ強くなる。
その一言で、呼吸を飲んだのがわかる。
一拍、間。
手を差し出しながら、目を見て
小さく頷いて、
もう一度、同じ場所を掴む。
立ち上がる時、
手を離さないまま、耳元で囁かれる。
TAKUTO side
…言う?今の
このタイミングで?
“家帰りたい”って
"2人きりになりたい"…?
横を歩くあなたは何も知らずに、
ちょこんと並んで歩いてる。
可愛い。ほんとに。
ふー……っと息が漏れる。
落ち着け。落ち着け。と何度も心の中で繰り返す。
でも、無理だ…
触れたい。抱き寄せたい。
てか、もう今すぐ抱きしめたい
手だけでも繋ごうかと、指が勝手に動く。
……けど、繋いだ瞬間、
もうそこで終わりな気がしてギリギリで踏みとどまる。
ちらっと横を見る。
少し頬を赤くした、あなた
気づいてるわけじゃないだろうけど。
呼吸を整えようと大きく息を吸う。
スゥーーー
…逆効果だった
彼女の甘い匂いがかすかに鼻に入ってきて、
理性がさらに揺れる。
足が速くなる。
自然に。
早く、家。
早く、閉めたドアの中、ふたりきり。
あなた side ※以降「甘」有ります。
鍵が閉まる音より早く、
背中に腕が回された。
言い終わる前に、首筋に落ちた熱い息。
背中に感じる胸の鼓動が、
さっき外で見た“我慢してるタクトさん”のそれより
ずっと、ずっと速い。
低く掠れた声が、耳の後ろで笑う。
歩けるはず、なのに。
膝がゆるい。呼吸が浅い。
腰に触れられただけで、身体が勝手に反応する。
熱い吐息が掛かったままの首すじに
そのまま唇が触れた。
呼吸、全部持っていかれる。
腰に添えた手が、
逃がさないとでもいうようにそっと締まる。
小さく言っただけなのに、
後ろからタクトさんが息を吞んだのが分かった。
次の瞬間、
ふわっと、身体が浮いた。
頬を真っ赤にしてる私を
満足そうに見下ろしながら、
声が低くて、
でも優しくて、
身体の奥まで響いてくる。
もう反論なんてできなくて、
ただ、タクトさんの胸の中で呼吸を乱したまま、
ただ頷くことしかできなかった
TAKUTO side
あなたの指が俺のシャツ掴んだ瞬間、
もう、完全にダメになった。
腕の中に収めたその身体を抱え上げると、
ふわって足が浮く感覚が伝わってくる。
ベッドに向かう数歩が、やたら長く感じる。
どっかで、あなたの小さな吐息が落ちるたび、
背中の方まで熱が走って止まんない。
ベッドの端にそっと降ろした時、
あなたが俺を見上げて、少しだけ不安そうに瞬きする。
…それがもう、やばい。
名前呼ぶだけで声が震えそうで、
あなたがぎゅっとシーツ掴んでいる手を、
上から包み込む。
吐息交じりでそう言うと、
あなたが恥ずかしそうに笑ってくれる。
その笑顔で、全部終わった。
もう、隠す必要ない。
唇が触れる直前、あなたの呼吸が
震えてるのが伝わってきて——
そこで完全に理性が、どっか行った
わざと低く、でも甘さが滲ませた
あなたが好きな声。
顔をあげたあなたの目は潤んでて
──胸がぎゅっとなる。
ゆっくり近づいて、額を重ねる。
その距離になっただけで、喉が締まる。
キスは、さっきよりずっと深く
触れただけだったなら止められるのに……
触れた“あとの”あなたが可愛すぎて、離れられない。
気づいたら、あなたの腰が自然と俺の方に寄ってくる。
それが――
“もっと”って言ってるみたいに都合よく思ってしまって
吐き出した声が、
思った以上に熱を含んでて自分でも驚く。
そう言うクセに、繋いだ手は解かれない
だから、もっと引き寄せる。
あなたの額に触れた唇を
ゆっくり、ゆっくり滑り降ろす。
触れた場所から溶けていきそうで、
あなたは思わず息を飲むけど——
その音すら理性を削る。
喋りながらも、
言葉の合間に混じる吐息が熱くて重い。
ふっと緩むのが自分でも分かる。
あなた目に映る自分の顔は
完全にあなただけを求めてる目。
あなた熱でとけていくような夜。
月明かりよりも、
彼女の吐息と声のほうがずっと熱くて甘い—
そんな夜。
・
・
・
腕の中で、あなたの呼吸が少しずつ落ち着いていく。
その温度が、
鼓動が、
全部ちゃんとここにあって。
俺は、何も言わないまま、
ただ背中に腕を回した。
守るとか、約束とか、
そんな大げさな言葉はいらない。
この夜を、
この人を、
選び続けるだけ。
静かに目を閉じて、
腕の中のぬくもりを確かめる。
——選んだのは、俺のほうだから
〜 完 〜













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。