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蜂楽 「ハァ……ハァ……」
蜂楽 (やっぱ……すげぇ……!)
対峙する度に、ありとあらゆる方法で抜かしてくる彼女は
やっぱり
軽やかにステップを踏みながら観客を沸かせる、踊子のようで。
抜かされて悔しいという感情よりも、美しくて綺麗だという感情の方が上回ってしまう。
あなた 「ハァ……ハァ……」
あなた 「あー疲れたぁ。」
あなた 「そろそろ他の仕事もやらなきゃだし、この辺にしとこ!」
あなたっちは、地面に転がったボールを足のつま先から甲に滑らせ、
数回リフティングしてからコートの端に寄せる。
蜂楽 「あなたっち!」
あなた 「?」
次の仕事に向かうため、扉から出て行こうとする小さな背中を
俺は本能的に引き留める。
あなた 「なあに?蜂楽くん。」
蜂楽 「……また、一緒に」
蜂楽 「サッカーしようね。」
どうしてだろう。
楽しかったはずなのに
なぜか、おそるおそる尋ねてしまう自分がいた。
NOと言われるのが 怖いから?
でも
あなたっちなら
きっと……
あなた 「うん!もちろんいいよ!」
蜂楽 「……ホッ」
ほらね。
あなたっちなら、そう答えると思ってた ♪
遠ざかる小さな背中を目で追いかけていると、
背後から声がかかる。
凛 「姉貴のプレーに一目惚れでもしたか?」
蜂楽 「!」
足の甲でリフティングをしながら、
目線はボールに向けたまま、凛ちゃんが尋ねる。
蜂楽 「惚れない方がおかしいよ。」
蜂楽 「あんな最高の……」
蜂楽 「 “ファンタジスタ” 。」
その言葉を 口にするだけで
さっきの愉楽と快楽の記憶が、
まるで映画のフィルムが巻き戻っていくみたいに、ぐるぐると鮮明に蘇る。
凛 「だから言ったろ。」
凛 「俺の姉貴は強い。」
冷たい目で ツンとすました顔のまま、嘲るように鼻で笑う。
自分のことじゃないのに、まるで自分のことみたいに自慢してる……
ホントにお姉ちゃんのこと大好きなんだな。
凛 「あのクソ技巧姉貴が貰った最優秀選手賞の数は」
凛 「ジュニアの時なら……」
凛 「俺より多い。」
蜂楽 「!」
やっぱり
あなたっち、ちゃんとサッカーやってたんだ。
確かに、これまでの彼女からのアドバイスを思い返してみれば
サッカー経験者にしか共感できないような細かいことも、スラスラ話してた……
蜂楽 「……フッ」
俺、まだ全然あなたっちのこと知らないんだな。
たくさん話して、もうすっかり仲良くなった気でいたけど……
もっと、知りたい。
あの子のことを。
蜂楽 「ねぇ!凛ちゃん!」
昂る感情。
ヒールリフトで巻き上げたボールをキャッチし、
一人ボールを蹴る彼に駆け寄っていく。
蜂楽 「今あなたっちって、どこのチームでサッカーしてんの?」
凛 「…………。」
だが、彼からの返答は無い。
フイッとそっぽを向くと、またさっきと同じように、一人で自主練を始め出した。
蜂楽 「ねぇねぇ!聞いてる?無視はよくない!」
依然として こっちの言葉には聞く耳を持たず、
ただ一人、淡々とメニューをこなす凛ちゃん。
蜂楽 「ねぇ─────」
凛 「うるせぇオカッパ。」
凛 「邪魔だ。帰れ。」
蜂楽 「……、」
大好きなお姉ちゃんがいなくなった途端に、会話が成り立たなくなる。
蜂楽 「兄ちゃんを倒したくてやってんだっけ?サッカー。」
凛 「だったらどーした?消えろって。」
蜂楽 「俺、初めて見たよ。」
蜂楽 「アンタみたいに……」
蜂楽 「寂しそうにサッカーする人間。」
リフティングをする凛ちゃんの顔は、長い前髪に隠されて
どんな表情をしているのか、よく読み取れない。
凛 「喧嘩売ってんのか。オカッパ。」
凛 「お前の感性に頼り切ったドリブルこそ……」
凛 「ひとりで戦うことを恐れてる 誰かを探してるサッカーだ。」
蜂楽 「─────……、」
顔を上げた凛ちゃんが、無造作に髪をかき上げると
あなたっちそっくりの綺麗な瞳が、見下すように俺を睨む。
だけど、何も言い返せない。
だって……
彼の言ったことが、
あまりにも 当たり過ぎていたから。
糸師姉弟ってのは
人の心を読むのが 得意なのか……?
凛 「さっきの 1 on 1 も」
凛 「姉貴と意気投合したように見えて、」
凛 「ただ お前の一方通行な気持ちだけが」
凛 「自由なドリブルにカモフラージュされてただけだ。」
蜂楽 「………………!!」
俺の……
一方通行な気持ち…………?
いや……嘘だろ。
確かに、あの時、あの瞬間。
俺らは
サッカーで通じ合っていた──────……
凛 「その ぬるいエゴじゃ」
凛 「姉貴の心は踊らねぇよ。」













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。