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第2話

Day2
8
2024/03/17 02:56
◆◇◆◇◆◇
今日はちょっと歌ってみようと思う。お母さんが好きだと言った、歌を。
風が強い。自分が発した声が上手く聞こえなくて、叫ぶように歌った。この曲は、穏やかに優しく愛を綴る物。叫ぶように歌うものでは無かった。自分がこの曲を、汚したことが分かった。
今は平日のお昼前。私の歌を邪魔する人はいなかった。流石に私も人目を気にする。例えば、私のクラスメイトが、先生が、近所の人が、この道を歩いてて。誰かに私の歌が聞こえていたら、私は恥ずかしくて消えそうだ。でもそんなことはなかった。安心した。
重い足を動かし、コンビニへ行く。自宅から約10分で着くコンビニ。以前なら楽々と行けていた道も、運動不足な体には酷だった。息が切れる。
店員
合計2点で、320円です
そう言われ、小銭を取り出す。お釣りが無いように、小銭を落とさないように、慎重に。上手くできたのに、店員の目は冷たかった。
私が中学生だからだ。
普通なら学校に行くべき人間が、昼、こんなところでお菓子を買っている。異常だ。普通じゃないことなんだ。そう唐突に再確認させられた。脚が震えた
なんとか家に付き、閉まったままのカーテンを開け、お皿を取り出す。これを昼ご飯にしてしまおう。そう思って、ビニール袋からさっき買った物を取り出す。
菓子パンと紅茶。お母さんが好きで、よく買っていたことを思い出す。クリームとチョコがトッピングされただけの、普通のパンなのにあの人は美味しそうに食べていた。小2の時、怖がりながら誕生日に買ってあげた記憶がうっすらある。
アオ
あの時は、楽しかったな………
プリントや物が散らばった部屋を見渡す。あの日、お母さんが倒れたあの日から何もする気力がなくて、掃除もしていないこの部屋を。そして、急に惨めな気持ちになる。
アオ
かたずけ、しないと……
突然襲う義務感。菓子パンを食べることも、紅茶を飲むことも忘れ掃除を始める。いらないものを乱雑にゴミ箱に投げ入れ、いるものは学校用のカバンに突っ込む。突っ込むだけ、横にずらすだけの動作を繰り返しているうちに【私はちゃんとしている】という謎の錯覚が生まれる。それにただ浸る。
そうして自分が正しいと、正常だと、普通だと、
錯覚する。

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