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小さい頃、何度も何度もその言葉を聞いた。最初は、よく分かってなくて。ただ嬉しくて、笑顔を返した。私の笑顔を見ると、お母さんはもっと笑顔になって。私をぎゅっと抱きしめた
そんなお母さんがくれた、【宝物】という称号も
今ではただの呪いになっている
Day1
点滴の音が響く病室で。私は一人待っている。お母さんの目覚めを。一人、待っている
私が小学生の頃、倒れたお母さん。病院に運ばれて、いろいろ検査をして。お母さんの病名を、私は知らない。見つかってないのか、それとも意図して隠されているのか。もし、わざと隠してあるなら、そういうことだ
私は毎日、お見舞いをしてる。学校には友達なんていないし、家でも嫌なことばかりだし。唯一の希望が、お母さんの目覚め
今日、お見舞いに行ったら、もしかしたら目を覚ましているかも。ぼんやりとした顔で、私の目を見て。ぽつりと、私の名前を呟いて。来たんだと嬉しそうな顔をするかも
なんて、そんなことが起きないのは分ってた
看護師さんが、おどおどした様子でそう尋ねてきた。必死に私を励まそうと、努力してるのが分かる
「幼い頃にお母さんが倒れたかわいそうな子」
そういう評価を下してるのが、嫌でも分かった
看護師さんは困ったようにそう呟き、目をそらした。ほら、嘘だ。変に気を使われても、逆に傷付く。それくらい理解して欲しい
「何か悩んでること」。お母さんのこと以外にあるの?。私は聞いたのに。あなたは嘘をついた。答えなかった。有言実行不可能な言動は謹んで欲しい
最後にそう挨拶をする。返事はない
分かってる
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。