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第8話

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2023/03/02 06:09 更新
この街にも生活は溢れている。
その一角で,僕のパパとママは今日もまた喧嘩している。

「はぁ」

やめてほしいなぁ。

ここまでがいつものルーティーン。

パパとママの喧嘩のあとは学校。
あの子と並んで歩けない通学路はなんだか寂しくって少し苦手。
あいつは石を投げて僕を遠ざけようとするけど人肌恋しい僕はその後ろをついていく。

今日はあの子が休みだった。あの子のいない授業は退屈で仕方ない。
だから学校を抜け出した。

グゥー

散歩してたらいつの間にか午後0時。
僕の頬を掠めた風はすべてを見透かしているようで,僕は不安に襲われながら少し乾いた目でまばたきをした。

きっとこの世界から僕が消えたって何も変わらない。地球は変わらず回り続けるんだろうな。

そんなことを考えて少し寂しくなった。

少し泣いたせいで火照った体を抱えて自分を変えたい僕は走り出した。
いつの間にか辺りはよく見知ったはずの,でも全然知らない町並みになっていた。いつも目で追いかける景色も呼吸のたびに感じる匂いも耳に入り込む音も苦い空気も,いつもと同じはずなのに全然違って見えた。

どこが違うの?何が違うの?違うことがあるなら教えてよ……。


今日はお引越しをした。
ご近所さんになるおばさんとお話をした。おばさんは頭を撫でて,お菓子をくれた。
もう僕だって小学5年生だ。この年になって頭を撫でられたって嬉しくないよ。
そんなこと言えなかったけど,やっぱりいくつになってもお菓子は嬉しいな。

引っ越しの準備と荷解きで疲れたのか,ママは寝ちゃってる。
僕も疲れたからママの隣でお昼寝。
でも、パパもママもあの子もおばさんも皆世界から消えちゃう夢を見て,すぐに飛び起きた。

怖くて,ママを起こそうとした。

「あれ?全然起きてくれないや。」

夢と相まって,今まで感じたこともないような焦燥感に襲われた。
怖くなって半べそでその体を揺らす。
だけどママの体は熱のときみたいに熱くて,うんともすんとも返さずに苦しそうな吐息だけ吐き出した。

「助けて!ねぇお願い!誰か助けて!!」

外に飛び出して必死に叫んだ。
道行く人は僕が泣き出したって知らんぷりで通り過ぎるだけだった。


夕方になってパパが帰ってきた。

「パパ,ママをお医者さんに連れて行かなきゃ!」

僕はそう言いながらパパのスーツを引っ張った。
だけどパパはその手を振り払って僕を睨む。
その目が示した言葉はきっと
「お前もママもいらない。」「出ていけ。」
ってことなんだろう。


新しい街を彷徨い歩きながら僕は考える。

喜怒哀楽,全部の感情を紙みたいにくちゃぐちゃって丸めて投げ捨てたらきっとこの苦しい思いも消えてくれるよね。

だけ残して野球みたいに思いっきり投げてみた。
さっきまで僕の心の中を示すかのように降っていた夕立は,きれいな茜空に変わっていた。


晴れた空の下駆け抜けた僕が後ろを振り向くことはない。解けた糸を結ぶみたいに僕を繋ぎ止めていた価値観は解けてどこかへ飛んでいった。
呼びかけても草の根かき分けて探しても見つからない。きっと,もういらないってことなんだろう。

目が追う景色も生活の匂いと音も僕の心の苦味も新しいこの街はちょっぴり冷たい。でもまあいいさ。もう僕の大切なものはここにはないんだから。


「ねえ,君の名前はなんていうの?」
「名前なんてないよ。」
「友達と遊ばないの?」
「うん。だっていないんだもん。」
「家族は?」
「もういなくなっちゃった。」
「そっか。それじゃ僕が君と並んで歩いてあげるよ。」

誰の役にも立てなかった僕の手が君から触れられている。
感情なんて投げ捨ててきたはずなのに,涙が頬を濡らす。
ああ,ダメだな。

「お願い,このままずっと繋いでて。」
「うん。」

「ギュッと繋いでて。」
久し振りの更新です!!
今回の曲は

HoneyWorksさんの

ロクベル

です!!

この曲明るくも暗くて悲しい曲で,めっちゃ好きなんですよね。

どうぞ皆さん一度聞いてみてください!!
あ,あとついでになんですけど僕今
この曲にどハマリしてるんで良かったらどうぞ

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