前の話
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冷たい朝靄が石畳を覆う白銀荘の門前。銀色に輝く鉄柵の向こうから、低く響く歌声が微かに聞こえてくる。
“遠く…果てしない…”
それは最初こそ淡く静かだったが、次第に重みを増し、空気そのものを震わせ始めた。
門番と警備員が異変を察知し、銀警察へ緊急通報を入れる。荘内から現れたのは、白銀の髪をなびかせ、チェーンソー型の大剣を携えたレギウス=キング。
「――防壁を張るんだ! 中に入れたら終わりだぞ!」
冷徹な指示と同時に、門番たちは銀血で造られたバリア装置を展開。その隙間を縫うように、レギウスは門の外に立つ一人の男へと歩み寄る。
不知火――白い髪、白い瞳、オレンジゴールドのヘッドセットを装着した男。亡き兄・白夜への想いを、歌に乗せて白銀荘へと向けていた。
「白夜……」
不知火の歌声は高まり、空気を切り裂くように響く。
“大事なものは…変わらないまま…初めから…”
レギウスは無言で大剣を構え、チェーンソーの刃を唸らせた。白銀の火花がきらめく。
「開始早々、騒音を発動するとは……最悪」
体内の銀血が蠢く。不知火の歌が“禁断”の域へと変わろうとしているのを、レギウスは察知していた。
“この声 真っすぐ…届けたい いま――”
“あなたの…あなたの…無垢な眼差しが…”
不知火の両腕が黄金の大剣へと変異する。胸元からは白金の蔓がにゅるりと伸び、枝分かれしながら卵型の黄金の実を結びつつあった。
「――ッ!」
レギウスは瞬間的に飛び込み、大剣を振り下ろす。不知火の黄金の双剣がそれを受け止めるが、その衝撃で地面が大きく割れる。
“冷たい世界を…照らしてくれた…”
歌声はさらに激しくなり、白夜への思念が走馬灯のように溢れ出す。
蔓は不知火の半身を覆い、不気味な輝きを放つ実が増えていく。レギウスの白色の瞳に、わずかな嫌悪が宿った。
「姿形が最悪でも希望は持てるのか……ありえない……(そもそもコイツ自体に希望なんてあるのか? 何でこの言葉が出た? 考えたら反吐が出るからやめとこ)」
吐き捨てるように呟きながら、銀血の防衛膜が全身を覆う。禁断の歌による精神干渉を遮断するためだ。
“止めどなくあふれる…想いの全てを…力に変えて放て!”
不知火の双剣が光の奔流となってレギウスを襲う。しかし銀血の壁はそれを弾き返し、レギウスは一気に間合いを詰める。
「くたばれ!!!!」
チェーンソー大剣が唸り、黄金の剣を粉砕する。不知火の胸から伸びる蔓を、レギウスは片手で掴み、力任せに引き千切った。
「がっ…!はあ…っ!」
不知火の歌声が途絶える。
「逝け!!!!」
レギウスの突きが、不知火の胸部を貫いた。銀血の膜が、逆巻く黄金のエネルギーを内部から破壊する。
“誰より…眩しい…ヒカリになること…”
もはや声にならない歌が、虚空へと消える。
レギウスは刃をさらに押し込み、不知火を地面へと押さえつけ、その命を完全に断つ。
白金の蔓はしだいに色を失い、黄金の実は砕け散った。静寂が戻った朝の門前で、レギウスはゆっくりと刃を抜く。
「見事に大地が汚れた……例え謝っても無理」
背を向けた彼は、迷いなく白銀荘へと戻っていく。
その背中を、朝日だけが静かに照らしていた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。