第21話

#20
158
2026/06/16 11:13 更新
あなたの下の名前
もしもし〜?
熊谷さん、どうかしました〜?


電話越しにあなたの名字さんの声が聞こえる



イントネーションが関西弁に近くなっているから、相当酔っていそうだ

熊谷みつ夫
あ、今何してる?
あなたの下の名前
今はですねぇ、詩乃さんと飲んでた帰りです!
兎原飛吉
あなたの下の名前ちゃんめっちゃ楽しんでんじゃ〜ん
あなたの下の名前
あれっ、兎原さんもいるんですか?
こんちは〜!
兎原飛吉
うぇーい、いるよ〜!
あなたの下の名前
そっちは何してるんです?
熊谷みつ夫
今は裏道さんの家で3人で飲んでます
あなたの下の名前
………ふーん?
そうなんですね〜?
表田さん、お二人とは飲みに行ってるんですね〜?


あなたの名字さんの声が少し不機嫌そうになる

表田裏道
怒ってる……?


と、スマホが音声を拾わないように小声で熊谷に尋ねる



熊谷は「分かりません」と言うように首を振った

熊谷みつ夫
裏道さんと何かあった?
今日お互い全く話してなかったけど
あなたの下の名前
いや、私が悪いだけなんで……
熊谷みつ夫
なんか、怒ってる?
あなたの下の名前
そうなんです!!
朝表田さんに声掛けたら明らかに聞こえてはるのにどっか行ったし、そっからも全然話せてへんくて!
腹立ってます!!
熊谷みつ夫
………あ、そっち
あなたの下の名前
私、表田さんに嫌われたかもしれへん……
謝りたいけど話しかけん方がええんですかね?
兎原飛吉
え〜っ、話しかけりゃいいじゃん
裏道さんこそあなたの下の名前ちゃんにセクハラしちまったかもって反省してるし〜
ほら、抱き寄せた時に腕におっぱ………ぐふっ
熊谷みつ夫
一旦黙れ、酔っぱらい


熊谷が兎原の口を塞ぐ一方で、あなたの名字さんはけらけらと笑っていた

あなたの下の名前
あっはははは‪‪‪w‪w‪w
あんなんただの脂肪の塊ですよ?
太った人のお腹に触ったとでも思っとけばええんですよ笑笑笑
表田裏道
お前ごときに触らせるわけねぇだろ、太っちょの腹でも触っとけ、ってこと?
熊谷みつ夫
なんでそう飛躍するんですか


スピーカーに拾われないようにお互い小声で話す


兎原は横で寝転んでフローリングの線をなぞり始めた

熊谷みつ夫
なんで謝りたいんだ?
あなたの下の名前
だって………
今回私が巻き込んじゃったじゃないですか
だから、そのせいで表田さんに嫌な思いをさせたんやったら私は謝りたいです


あなたの名字さん………いい人だ



心の扉が少しずつ開きかける感じがする

熊谷みつ夫
じゃあ、あなたの名字さんは昨日のことは怒ってないってことだな
あなたの下の名前
そうですよ〜
熊谷みつ夫
裏道さんが話しかけても問題ないか?
あなたの下の名前
そうですね…………
話しかけられたら、ビンタしたあとほっぺたにちゅーしたい気分です
表田裏道
えっ、どういう?
熊谷みつ夫
さあ?


ふたりで混乱するが、当の本人は電話越しに笑い声だけが聞こえてくる



さっき開きつつあった心の扉は少し戻ってしまった

あなたの下の名前
というか、熊谷さんずるいです!
私は避けられたのに熊谷さんと兎原さんは表田さんと飲みに行って〜!
私も仲良くなりたいのに……
熊谷みつ夫
え、仲良くしたい?
表田裏道
熊谷?
熊谷みつ夫
………
表田裏道
熊谷?なぁて


熊谷は目を逸らし、明らかに強引に話に戻った

熊谷みつ夫
なんで?
あなたの下の名前
え?
だって表田さん普通に優しいじゃないですか
表田裏道
…………
熊谷みつ夫
泣いてます?
表田裏道
泣いてない
熊谷みつ夫
ていうか、今ひとり?
危なくないか
あなたの下の名前
いえ、近くに住む友人と偶然会って、送ってくれるって言ってました!
熊谷みつ夫
そうか、じゃあまた
あなたの下の名前
はーい、さよなら〜


そこで熊谷は電話を切る





静かになった部屋で、自分は安堵に息をついた

熊谷みつ夫
良かったですね、怒ってなくて
表田裏道
次会ったらビンタされるけどな
熊谷みつ夫
あれは多分避けられたことに対して怒っているだけですよ
表田裏道
………ちゃんと、次会ったら話してくる
熊谷みつ夫
ごめんなさいができてえらいクマァ
表田裏道
クマオくん出すなよ
熊谷みつ夫
いや、なんて言ったらいいか分からなかったので
表田裏道
そう……なるか?
熊谷みつ夫
なってしまうんですよ
……では、そろそろ行きます
時間も遅いんで
表田裏道
もうそんな時間か


時間を見ればそろそろ日付が変わる頃だった







空になった惣菜の容器や酒の缶をふたりで片付け、いつの間に寝てしまった兎原を起こす


床で寝ていた兎原の顔にはくっきりとフローリングの痕が付いていた

熊谷みつ夫
起きろ、そろそろ帰るぞ
兎原飛吉
うえっ、マジで?
………てか何してたっけ
熊谷みつ夫
裏道さん家で飲んでたんだよ
兎原飛吉
あ、そうだったそうだった


兎原が起き上がり、ふたりは荷物を持ち、挨拶をして帰っていった








なんだか今日は疲れた気がする、風呂は明日の朝に入ればいいか



酒も入っていることだし、眠剤無しで寝られるだろう





今日は歯だけ磨いて寝ることにした





























ーーそして、帰宅中の兎原、熊谷ーー


熊谷みつ夫
なんか今日、ずっと惚気と恋バナ聞かされた気分だったな


マンションの出入り口を出た熊谷は呟く



しかし、兎原は首を傾げた

兎原飛吉
え?そうか?
熊谷みつ夫
お前……だからモテないんじゃないか?
兎原飛吉
えぇっ、なんでだよ〜!
熊谷ぃ〜
熊谷みつ夫
…………あっ


2人の視線の先にあなたの下の名前が映る




その隣にはゴツくて強面の男性が歩いていた



トラブルがあるような様子もなく、親しげに話しながらふたりでこちらへ向かっている

熊谷みつ夫
友達って……あれか?
兎原飛吉
なんか意外なタイプだな〜


ふたりであなたの下の名前たちを見ていると、男性がこちらに気づいた



彼は怪訝な顔をして声をかけてきた

男性
なんや、こっち見て
知り合いか?
あなたの下の名前
タク、やめぇや
男性
でも、姐さんがまた変なやつに付きまとわれたら危ないやんか


威嚇する男性をあなたの下の名前がたしなめる



男性は彼女を心配していたらしい

あなたの下の名前
その人ら私の職場の先輩さんやで
ウサオとクマオの中の人や
男性
何すかそれ?
あなたの下の名前
ママンとトゥギャザーの着ぐるみやて
トラの子供が好きなやつやろ?
男性
あーっ、あれか!
いやぁ、すんません
姐さんがお世話になってます!


男性は大きな声で挨拶をし、腰を曲げて深々とお辞儀をした



挨拶は挨拶でも、上下関係の厳しい不良やヤクザのような挨拶だった






その後2人は「さようなら〜」と言ってマンションの方へ歩いていった







二人残された兎原と熊谷は道にポツンと立ち尽くす

兎原飛吉
姐さん、って………?
熊谷みつ夫
まだまだ謎が多い人だな


そうしてふたりは考えることをやめ、また家への道を歩き出した




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