電話越しにあなたの名字さんの声が聞こえる
イントネーションが関西弁に近くなっているから、相当酔っていそうだ
あなたの名字さんの声が少し不機嫌そうになる
と、スマホが音声を拾わないように小声で熊谷に尋ねる
熊谷は「分かりません」と言うように首を振った
熊谷が兎原の口を塞ぐ一方で、あなたの名字さんはけらけらと笑っていた
スピーカーに拾われないようにお互い小声で話す
兎原は横で寝転んでフローリングの線をなぞり始めた
あなたの名字さん………いい人だ
心の扉が少しずつ開きかける感じがする
ふたりで混乱するが、当の本人は電話越しに笑い声だけが聞こえてくる
さっき開きつつあった心の扉は少し戻ってしまった
熊谷は目を逸らし、明らかに強引に話に戻った
そこで熊谷は電話を切る
静かになった部屋で、自分は安堵に息をついた
時間を見ればそろそろ日付が変わる頃だった
空になった惣菜の容器や酒の缶をふたりで片付け、いつの間に寝てしまった兎原を起こす
床で寝ていた兎原の顔にはくっきりとフローリングの痕が付いていた
兎原が起き上がり、ふたりは荷物を持ち、挨拶をして帰っていった
なんだか今日は疲れた気がする、風呂は明日の朝に入ればいいか
酒も入っていることだし、眠剤無しで寝られるだろう
今日は歯だけ磨いて寝ることにした
ーーそして、帰宅中の兎原、熊谷ーー
マンションの出入り口を出た熊谷は呟く
しかし、兎原は首を傾げた
2人の視線の先にあなたの下の名前が映る
その隣にはゴツくて強面の男性が歩いていた
トラブルがあるような様子もなく、親しげに話しながらふたりでこちらへ向かっている
ふたりであなたの下の名前たちを見ていると、男性がこちらに気づいた
彼は怪訝な顔をして声をかけてきた
威嚇する男性をあなたの下の名前がたしなめる
男性は彼女を心配していたらしい
男性は大きな声で挨拶をし、腰を曲げて深々とお辞儀をした
挨拶は挨拶でも、上下関係の厳しい不良やヤクザのような挨拶だった
その後2人は「さようなら〜」と言ってマンションの方へ歩いていった
二人残された兎原と熊谷は道にポツンと立ち尽くす
そうしてふたりは考えることをやめ、また家への道を歩き出した












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。