卒業式が終わった春の午後、校門の前で立ち止まった。胸に抱えた花束の香りと、まだ残る式のざわめきが耳に残っている。制服姿で並んで歩けるのは、もう今日が最後だ。そう思うと、喉の奥がつまってしまいそうで、自然と横にいる蓮の顔を見上げた。
蓮はいつも通り強気な調子で笑ったけれど、その横顔は少し赤くなっていて、どこか照れくさそうに見えた。風が吹いて、胸元のコサージュが揺れる。新しい季節が、すぐそこまで来ているような気がした。
校舎の影が長く伸びる道を二人で歩きながら、この一年半を思い返す。
ふと呟いた私に、蓮はにやりと笑う。
そんな言葉を照れもなく言えるところが、ずるい。でもそのずるさが嬉しくて、胸がじんわり温かくなる。これから先もきっと、私は何度も彼に振り回されるんだろう。それでも構わない。むしろ、その全部を一緒に背負っていきたいと思う。
信号待ちの横断歩道で立ち止まったとき、蓮が不意に手を伸ばしてきた。人目なんて気にしないみたいに、しっかりと私の指を絡めてくる。驚いて見上げると、彼はまっすぐな瞳でこちらを見つめていた。
どこかで聞いたようで、でも明らかに違う響きだった。
制服を脱いだ今だからこそ言える言葉。子どもの約束じゃなくて、大人になるための誓いだった。
握られた手は少し汗ばんでいて、その温度が未来へ続く証のように感じられた。
やがて信号が青に変わり、二人で歩き出す。行き交う人の波に混ざりながらも、繋いだ手だけは絶対に離れない。
夕暮れに染まる街並みを眺めながら、ふと思う。
この人となら、どんな日々も越えていける。明日も、その先も。
春の風が頬を撫で、制服の裾を揺らした。新しい季節へ踏み出す足取りは、不思議と怖くなかった。隣に蓮がいる限り、未来はずっと続いていく。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!