卒業式前日の放課後。
教室には私と蓮しかいなかった。窓から差し込む西日は斜めに机を照らし、長い影を床へ落としている。廊下のざわめきも、下駄箱の方から聞こえる笑い声も、ここには届かない。静かで、少し切なくて、時間だけがゆっくり流れていた。
蓮の声は、いつもより少し低く、柔らかかった。白いシャツの袖口から覗く手首さえも眩しく見えて、思わず目を逸らす。制服を着る蓮を見られるのも、本当にあと一日だけなんだ。そう思うと胸がぎゅっと締めつけられる。
この一年半のことを、自然と思い返していた。
最初はただ、かっこよくて、憧れで、近づきたくて。けれど蓮は私を追い詰めるように支配して、強引に心を奪っていった。悔しいのに離れられなくて、気づけばその支配が安心に変わっていた。
私が泣いたとき、彼は黙って隣にいてくれた。
誰かに笑われたとき、真っ先に庇ってくれた。
そして今は――支配ではなく、守られていると、そして確かに愛されていると、心から信じられる。
制服に染みついた思い出は、全部蓮と一緒に過ごした日々だった。
机に肘をつき、彼女を見つめる。窓から差し込む光のせいか、それとも胸の奥が熱いせいか、視界のすべてがにじんで見えた。
声が震えないように必死だった。冗談でも駆け引きでもない。これから先、彼女が自分のそばにいてくれなければ、きっと生きていけない。そんな覚悟の告白だった。
驚いた顔をしたあなたは、すぐにふわっと笑った。
ほんの一言。それなのに胸の奥が熱くなり、言葉にならない。指先がそっと触れ合った瞬間、俺は迷わずその手を握った。二度と離さない、と心の中で固く誓って。
——
窓の外では、太陽が沈みかけてオレンジ色の光を広げている。色づいた空はゆっくりと夜に溶けていき、校舎のガラス窓にその景色が映っていた。
蓮の手は温かくて、ほんの少し汗ばんでいて。その体温が、未来を約束するしるしのように感じられた。
即答するその声が心強くて、胸の奥に溜めていた不安がほどけていく。制服を脱いでも、学校を離れても、私は蓮と一緒に歩いていける。そう確信できた。
——
この一年半で、俺はあなたを変えたと思っていた。
でも本当は、変えられたのは俺の方だ。
独りよがりの支配心は、彼女の涙で打ち砕かれた。
守りたい、支えたいと願う気持ちは、彼女の笑顔に気づかされた。
「好き」っていう単純な感情が、こんなにも人生を豊かにしてくれることを、あなたが教えてくれた。
ふざけ半分のように小指を差し出した。けれど心の中では真剣だった。
あなたが少し笑いながら小指を重ねてくれる。その瞬間、胸が熱くて仕方なかった。
ガキみたいな約束だと分かっている。けれど、今の俺たちにはそれで十分だ。
——
チャイムが鳴る前の静かな教室で、私たちは未来を誓った。
明日の卒業式が来ても、制服を脱いでも、ここで過ごした時間が色あせることはない。
蓮とつないだ小指が、私をこれからもずっと導いてくれる。
泣いてしまってもいい。隣に彼がいる限り、何度でも立ち上がれる。
西日に照らされたその横顔を見ながら、私は確かに思った。
——
卒業式の鐘が鳴る前、
二人はもう、大人になるための第一歩を踏み出していた。
-fin-
これで本編はおしまいです。
最後まで読んでくださりありがとうございました◡̈♡
あと少しだけ番外編を書きたいとおもいます!
蓮くんの巧妙な罠にまんまとハマっちゃうお話を書きたかったのですが..なかなか難しいですね💦
もしよろしければ最後までお付き合いいただけたらうれしいです♪













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。