第11話

はじめての“みんなで夕食”へ
422
2026/02/02 10:00 更新
組長との対面が終わるころには、四季の緊張はすっかりほどけていた。

先ほどまで“怖い人の部屋”だと思っていた場所は、気づけばどこよりも静かで、どこより安心できる空気に包まれていた。
組長
四季くん
組長がやさしく声をかける。
組長
今日の夜は、ここにいる組の仲間たちと一緒にご飯を食べようと思うんだが……どうかな?
四季はぱちりと瞬きをする。
一ノ瀬四季
ごはん……いっぱい……?
組長
いっぱいあるよ。四季くんの食べられるものを医者の京夜くんが考えてくれる
一ノ瀬四季
……みんなと?
組長
ああ。四季くんを“家族”に迎えるための席だ
その言葉に、四季の小さな肩がきゅっと上がった。

(……みんな……?いっぱい……おとな……?)

まだ“大人=怖い”の感覚は消えていない。

四季の不安を読み取ったのか、後ろにいた真澄がそっと手を握る。
淀川真澄
大丈夫だ。俺たちも一緒にいてやる
無陀野無人
おまえをひとりにしたりしない
花魁坂京夜
四季くんが食べられそうなもの、俺も見ておくよ
皇后崎迅
ずっと隣にいる
四季は少しだけ息を吸い、こくんと頷いた。
一ノ瀬四季
……しき……いっしょ、いきゅ……
その一言で、組長は嬉しそうに穏やかに目を細めた。
組長
よし。では夜に準備しておくよ
一ノ瀬四季
うん……
組長
その前に、しっかり休むんだよ。散歩もしたんだろう?
一ノ瀬四季
……ねむい……かも……
本当は少し前からふらふらしていたのだが、緊張で気づかなかっただけだ。
皇后崎迅
じゃあ、部屋に戻るか
皇后崎が四季を抱き上げる。

四季はその胸に顔をうずめながら、ぽそりと呟いた。
一ノ瀬四季
じんの……あったかい……
皇后崎迅
そりゃよかった
四人の柔らかい笑いが部屋に響いた。



***



四季の部屋に戻ると、ふかふかの布団が敷かれていた。

そこにそっと寝かされると、四季は安心したように枕をぎゅっと抱いた。
淀川真澄
お昼も食べたし、散歩して疲れたろ?
真澄が布団をかける。
花魁坂京夜
無理に起きてると、倒れちゃうよ
京夜も優しく言う。
無陀野無人
四季、眠くなったら寝ていいぞ
無陀野の声はいつもよりほんの少し低くて、落ち着いた響きがあった。
一ノ瀬四季
……ねむ、い……
皇后崎迅
寝ろ寝ろ
皇后崎が頭を撫でると、四季は小さく目をとじた。

まぶたが重くなる。

布団の中のぬくもりは、生まれて初めて知った“安心できる場所”だった。

(……あったかい……こわくない……)

ぎゅっと握った布団の端を離さないまま、四季はすぐにすー……っと眠りに落ちた。

その寝顔を見て、四人はそっと息を吐いた。
淀川真澄
慣れねえ場所で緊張もしてたからな
花魁坂京夜
散歩の時も途中で疲れてたしね
皇后崎迅
体重まだ軽すぎるし、寝るのが一番だ
無陀野無人
……早く元気にしてやりたいな
四人は静かに頷き合った。
無陀野無人
じゃあ夕食まで、そっとしておいてやろう
花魁坂京夜
うん。俺らは準備しに行こっか
淀川真澄
四季の分、あんまり重たくしねぇよう伝えてくるわ
皇后崎迅
厨房にも言っとく
四季の寝息は、まだ頼りなくて、とても小さい。

でもその小ささが愛おしくて、守りたくて、四人は部屋を後にした。


***


数時間後。
一ノ瀬四季
……ん……
四季はゆっくりと目を開けた。

窓の外は夕方。

薄い橙色が部屋に差し込んでいる。
一ノ瀬四季
……あれ……?
身体が軽い。

さっきまでの疲れが嘘みたいだった。

そこへ、静かに扉が開く。
淀川真澄
起きたか?
優しい声がして、真澄が部屋に入る。

その後ろには京夜、無陀野、皇后崎の姿もあった。
皇后崎迅
よく寝てたな
花魁坂京夜
疲れてたもんね〜
淀川真澄
顔色だいぶよくなったな
無陀野無人
夕食、そろそろ行くか
四季は寝ぼけたまま、ぽつりと聞く。
一ノ瀬四季
……みんな、いるの……?
無陀野無人
ああ。組の人たち、四季に会いたがってる
皇后崎迅
でも、怖くねぇ。俺らの仲間だ
花魁坂京夜
四季を歓迎するための席だからね
淀川真澄
俺たちが隣にずっとついててやる
四季の不安が、ゆっくりと溶けていく。
一ノ瀬四季
……しき、がんばる……
花魁坂京夜
偉いねぇ〜
花魁坂が笑う。
皇后崎迅
行くか
皇后崎が手を差し出す。
四季はその手をぎゅっと握りしめた。

そうして、五人は夕食会場へ向かう。

大きな扉の向こうには、温かい明かりと、優しい笑い声が待っている。

(……あったかいとこ、また……いける……)

四季の小さな足は、怯えではなく、期待で前に進んだ。

そして――四季が“家族”として初めてみんなの前に立つ夜が、静かに始まろうとしていた。

プリ小説オーディオドラマ