第10話

組長の前で
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2026/02/01 10:00 更新
組の門の前に立ったとき――その瞬間だった。
一ノ瀬四季
……え?
門の前。

ずらり、と黒服の組員が並んでいた。

いつもの静かな玄関ではない。

四季の知らない大人たちが、一列に立ち、まるで何かを待ち構えているようだった。

四季たちが門の前に着くと、
組員
おかえりなさいやせ
組長がお呼びです
四季の身体がぴたりと止まり、指先がふるりと震える。

四季は恐怖で組員の言葉を全く聞いてない。
一ノ瀬四季
し、しき……なにか、した……?
声が小さくなる。

するとすぐに花魁坂が組員たちに注意をする。
花魁坂京夜
オメェら、四季が怖がってるだろ
もっと気おつけろ
組長
すいません
花魁坂京夜
次はねぇからな




そして真澄がすぐにしゃがんで目線を合わせた。
淀川真澄
違う。四季は何も悪いことはしてねぇ
一ノ瀬四季
じゃあ……?
淀川真澄
組長に呼ばれてんだよ
四季に会いてぇそうだ
一ノ瀬四季
……くみ、ちょ……?
四季の表情がみるみる強ばる。

“知らない大人=怖い”という記憶が身体に染みついている。

その瞬間、四季の手がぎゅっと真澄の服をつかんだ。
全員
あ……!
その仕草だけで、四人は全員、胸を撃ち抜かれたように優しい顔になる。
無陀野無人
怖くない。うちの組長は俺らよりよっぽど優しい
無陀野が四季の頭をぽんぽん撫でる。
花魁坂京夜
四季をいじめたりしないよ。むしろ、守ってくれる人
花魁坂が微笑む。
皇后崎迅
絶対に、ひとりにはしねぇから
皇后崎が短く、しかし強い声で言った。
一ノ瀬四季
……ほんと……?
無陀野無人
ほんとだ
一ノ瀬四季
うそ、つかない?
皇后崎迅
つかねぇよ
皇后崎が即答すると、四季は安心したように小さく息を吸った。
一ノ瀬四季
……じゃあ、いっく……
淀川真澄
偉いな、四季
真澄が頭を撫でると、四季は恥ずかしそうに目を伏せた。

四人に囲まれながら、四季は組の中へ。

大人たちは道をあけ、まるで“特別な客人”に向けられるような視線で四季を見つめる。

四季は思わず皇后崎の袖をぎゅっとつかむ。
一ノ瀬四季
……みてる
皇后崎迅
大丈夫だ。四季のことを、怖がらせる奴はいねぇ
皇后崎が静かに腕をまわすように庇い、周りの男たちを睨みつける。

すると組員たちは四季から目線をそらすようにいっせいに違う方向を向く。




廊下の突き当たり。

一番奥の重厚な扉の前で足が止まる。

ドクン…ドクン…

四季の心臓の音が聞こえそうなほど大きく響いていた。
一ノ瀬四季
……こ、ここ……?
皇后崎迅
ああ、組長の部屋
一ノ瀬四季
……こわ、い……
淀川真澄
四季
真澄がそっと四季の肩に手を置いた。
淀川真澄
俺たちが後ろにいる。絶対に近くにいるから
一ノ瀬四季
……
淀川真澄
大丈夫だ
一ノ瀬四季
……うん
その一言で、小さな身体はやっと扉へ向いた。

皇后崎が軽くノックし、中から低く柔らかな声が返る。
組長
入れ
扉が開いた瞬間、四季は息を呑んだ。

――部屋は思っていたよりも明るくて、怖さなんて一つもなかった。

奥に座っていたのは壮年の男。

厳つい雰囲気はあるけれど、眼差しは穏やかで、四季を見るとふっと笑った。
組長
君が四季くん、だね?ようこそ
その声は驚くほど優しかった。
一ノ瀬四季
……く、み、ちょう……?
組長
そうだよ。怖くないよ。
 組長は手を広げるようにして続けた。
組長
ここは“家族”で生きる場所だ。君を誰も傷つけない。ここにいる四人も、これからもっと君を守るだろう
うしろの四人が少し照れたように立っているのを見て、四季の不安が少しずつ溶けていく。
一ノ瀬四季
……しき、まも……る……?
組長
そう。守られるべき子だよ。
組長の一言で、四季の胸の奥がじんわりあたたかくなる。
組長
これからのことを少し話そうか。
 四季くんは、まず体を治すことが一番だ。ご飯も、お風呂も、ゆっくり慣れていけばいい
一ノ瀬四季
……うん……
組長
外の世界が怖いこともある。でも大丈夫。ここにいる限り、四季くんは安全だ
四季はうしろを振り返る。

皇后崎たち四人が、頷きながら優しい表情で立っていた。

(……こわく、ない……)

四季は、きゅっと拳を握り、ゆっくり組長を見た。
一ノ瀬四季
……ここ……あったかい……
組長
それは良かった
組長は嬉しそうに細い目をさらに細めた。
組長
四季くん。これから、よろしく頼む
一ノ瀬四季
……よろ、しく……おねがい……します……
その瞬間、後ろの四人の表情が一気にゆるみ、胸を打たれるようにあたたかくなる。

新しい家族の鎖が繋がった。

四季の人生が、静かに、しかし確実に変わり始めた瞬間だった。

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