｢…あ、雨……｣
｢傘、ないや……｣
　ここにはもういたくなくて走っていこうとした時、
｢せ、先輩！｣
後輩と見られる人に話しかけられた。
｢……何か私に用ですか？｣
｢え、えっと…俺2年の桃李拓真って言います｣
｢良かったら一緒に帰りませんか？｣
初対面、だよね？
｢……な、なんで？｣
｢あ、えっと、こんな雨の中帰ったら風邪ひいちゃうと思って……｣
｢あ、嫌ですよね…初対面の人にこんなこと言われるの……｣
　初対面の人に急に話しかけてくるのかがよく分からなかった。
｢い、いやそんなんじゃ……｣
｢いやじゃなかったら、俺と帰りましょ？ね？｣
ちょっと、強引なのかな……？
｢本当に、いいの？｣
｢はいっ！俺が一緒に帰りたいんで！｣
｢…じゃあお言葉に甘えて……｣
｢じゃ、帰りましょ！｣

　私と桃李くんの間に沈黙が流れる。
｢あ、あの、さ……｣
　その沈黙を破ったのは私だった。
｢なんですか？｣
｢どうして声掛けてくれたの？あと桃李くんの傘にまで入れてくれて……｣
　私なんかに声を掛けてくれたのか、ずっと分からなかった。
｢秘密ですっ｣
｢えー……｣
｢じゃあ俺からも質問いいですか？｣
｢…何？｣
｢先輩普段一人で帰ってるんですか？｣
｢……そうだけど｣
　一人で帰っている、というのは桃李くんには関係ないと思った。
｢じゃあ俺とこれから帰りませんか？｣
｢えっ、？｣
私なんかと、帰ってくれるの……？
｢…あ、ここ私の家……｣
｢あ……じゃあ先輩連絡先交換しませんか？｣
｢…ん？どうして……？｣
｢一緒に帰る帰らない関係なく仲良くなりたいんです！｣
　私と仲良くなってもいいことなんてひとつもないのに。
｢だめ、ですかね？｣
｢…私と仲良くなっても意味ないよ｣
｢俺がそうしたいんです！｣
　意味がやっぱり分からない。
｢…じゃあ、いいけど……｣
　後悔するんだろうな、と思ったが『いい、』と言っていた。
｢やった！｣
｢…ふふっ、｣
｢あ！先輩笑った！｣
私が、笑った？なんで？
｢俺といる時笑ってくれなかったから……｣
｢私、笑ってた？｣
｢え？笑ってましたけど……｣
　桃李くんは戸惑っているよう。
｢ごめん…また、ね｣
　私は桃李くんを置いて家に入っていった。
｢え、先輩？｣