ピコン
待ち合わせの時間が迫って来て、慌てて準備をしてると
スマホのメッセージ音が鳴った。
車で迎えに来てくれた、こーじからのメッセージだ。
こーじの事だから早めに来るだろうなって思ったけど、予想より早かった、、!
オレは急いで準備を終わらせて、ジャケットを手に取ってバタバタと家を出た。
マンションの下に降りると、見覚えのある車。
その窓からは、前向いたり、後ろの座席を確認したり、1人でバタバタしながら嬉しそうに笑ってるこーじの姿が見えた。
あいつ、何してんの1人で、、笑
車の窓をトントン、と叩いて挨拶してから、助手席に回ってドアを開けようとすると、運転席から慌てて出て来たこーじが開けてくれた。
なによー?ってちょっとむくれて笑いながら、運転席に戻ってエンジンをかける。
だってなんか、すっごく楽しみにしてくれてたんだなー、って伝わってきちゃって。
思わず笑っちゃうよ。
可愛いなぁ、こーじ。
水族館は、この前取材で行って
ペンギンの赤ちゃんとか見せてもらったり、クラゲもゆっくり見れたりですっごく楽しくて
またプライベートでも行きたいなぁって、雑誌とかでよく言ってたところ。
オレの、、って?
言い方にちょっとドキッとしたけど、突っ込む隙もなく続く。
ほんならええけど、、ってまだブツブツ言ってる。
今日のこーじはなんか、ヤキモチ妬きの彼女みたい。
オレに限らずそういう時あるよなぁ、こーじって。
口を尖らせてる横顔を見て、またふふって笑う。
運転してる姿はかっこいいのに。笑
ドリンクホルダーに置いてあったタンブラーを取って一口飲むと、いい香りが広がる。
またクサイ事言ってるよ、ってオレが笑って
なんで笑うん!?本気やのに!ってこーじがすねる。
カメラが回ってない時のこーじは全然ボケたりしなくて、どっちかというと2枚目キャラなんだけど
普段を知ってるから、かっこいいんだけどどうしても笑っちゃう。
水族館に着くまで、ずっとこんな調子で笑ってて
こーじの恋人になる人は、きっと楽しいだろうな、なんて。
ふと、思った。
こーじは「どうしたしまして」って笑って2人分のチケットを渡して、マップを広げた。
イルカのショーがあるらしい、とか
ここでペンギン見れるらしい、とか
オレが見たがりそうなところをめちゃくちゃ調べてくれてて
いつもはオレが説明とか進行とかするのに
しっかりこーじがリードしてくれてる。
水槽の前でも、オレの事写真に撮ってばっかりで
え、なにこれ何かの企画?
ブログに載せる用?
とか色々勘繰っちゃったけど、こーじはずっと「そんなわけないやろ、これは誰にも見せへんやつ!」って言いながら嬉しそうにしてる。
全然意識してなかったけど、こーじのこのノリ
もう、デートみたいじゃん、、?
なんだ、どういうことだ?ってぐるぐるしてきだして、水族館にはしゃぎながらも色んな事考えてきた。
もしかしてドッキリ!?
レギュラーも持ってるしなこいつ、、!
カメラが無いか、キョロキョロしたりして。
無い、よなぁ。
じゃあただ優しいだけ、、?
こんな急に、、?
でも、こんなにたくさんしてもらったしな、、
なんか御礼したいな、、
しばらく車を走らせると、車道の横に海が見えてきた。
また。1番って言った。
なんでそんな、わざとドキッとさせるような事、、
いつもこーじはみんなにそんな感じだけど、
今日はなんか、、やけにまじっぽいというか、、
とにかく、なんか調子狂うよ。
車窓の向こうの海を眺めながら、1人でドギマギしてると、降りられそうな浜辺が見えて来た。
車を停めて浜辺に降りると、
やっぱりオレの撮影タイムが始まった。
何枚か撮ってもらってから、
カメラで今日撮った写真を見返しながら、嬉しそうに「見てこのあべちゃん。めっちゃ嬉しそう。可愛い。」「これも可愛いな!」ってニコニコしてる。
もーいいよ、ってオレも笑いながら、水族館のお土産屋さんで買ったサメのちっさなぬいぐるみを手渡す。
くはく、って、、?
まさかオレに、じゃないよね?
しゃがんでカメラの画面を覗き込むこーじが、おいで、って手で肩を寄せる。
すぐ一緒に見れるように、デジカメも持ってきたって言いながら、撮った写真を見せてくれるけど、、
恥ずかしいよ、ってちょっと文句みたいに言ってこーじのほうを向くと
一緒に覗き込んでたから、顔がめちゃくちゃ近い、、!
しまった、と思ったときには
肩を抱き寄せられて
唇が、、
そっと触れた。
慌てて体を離すと
なんの、
てかなんでキス、、
もう色々分かんない。
頭が混乱したまま、うつむいてると
名前を呼ばれて、その時点で分かった。
これは、このまま告白される流れだって。
だから、今日ずっと恋人みたいに扱ってくれてたんだって。
こーじの言葉を聞きながら、色んな考えがまたぐるぐるしてた。
え、恋人としてって、いつから、、?
どうして、、
オレはなんて答えれば、、
いきなりすぎて、考えがまとまらなくて、
こーじを見つめたまま固まってると
ふふっと笑って、また顔が近づいた。
て、っていう言葉まで聞かずに、また唇が重なった。
体を寄せられて、ゆっくり唇が動く。
何度も、唇をなぞるように角度を変えて
そして、体を支える腕に力が入ると
空気を求めてうっすら開いたオレの唇の隙間から、熱い舌が入ってきた。
熱い唇と舌の感触に、溶けそうになってると
そっと唇が離されて
真剣な顔のこーじに、抱きしめられた。
ふと目に入った海には、もう夕陽が沈もうとしてる。
こんな真剣な顔、初めて見たな。
大切に大切にしてもらって、想われて
こーじと一緒にいたら、きっと幸せだ。
だけど、、
オレは、ふぅ、と息を吐いて
まっすぐにこーじを見つめた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!