第8話

保健室
1,069
2026/08/18 08:00 更新
sv
……最近、みんなの笑い声が消えそう
放課後。

誰もいない保健室のベッドに腰掛けながら。
俺はぽつりと呟いた。






窓の外では。
夕日が学校の校舎を真っ赤に染め上げている。

その赤さが。


なんだか不吉な血の色みたいに見えて。


俺は小さく胸を震わせた。





俺は昔から。
他人の感情の機微に少しだけ敏感だった。






だからこそ。

分かってしまう。





じゃぱぱが笑う時の。
ほんの一瞬だけ遠くを見つめる寂しそうな目。

たっつんが他人の陰口を大声で笑い飛ばす時の。
拳の震え。

なおきりさんの。
今にも倒れそうなほど限界を迎えている小さな背中。

ゆあんくんとうりが。
雨の日に見せる異様なまでの怯え。


そして。




もふとどぬくの。
まるでお互いしか世界に存在していないかのような。


暗く沈んだ視線。






みんな、限界だ。





心の中でボロボロに血を流しながらり
普通の高校生という"仮面"を必死に被り続けている。
sv
誰も傷ついてほしくないんだけどな……
俺は立ち上がり。
ポケットからスマホを取り出した。



まずは。
一番近くにいるのに。



一番遠くへ行ってしまいそうな。



"彼女"から手を引いてみよう。
あたしは保健室の前に立ち。

ドアを睨みつけるように見つめていた。



スマホに届いたシヴァからの。




【放課後、ちょっと保健室に来てくれない?】




というメッセージ。
et
本当におせっかいなんだから……
短すぎるスカートを翻し。
ガラリと勢いよくドアを開ける。


中には。
いつもの頼りない笑顔を浮かべたシヴァが。




パイプ椅子に座って待っていた。
sv
…急に呼び出してごめんな
et
何の用? あたしこれから用事あるんだけど
あたしはわざと。
派手なアクセサリーをジャラジャラと鳴らし。

ポケットに手を突っ込んでツンとした態度を取った。




本当は。
シヴァがどんな顔をしてあたしを見るのか。



怖くてたまらないくせに。




また"不良"を見る目で見られたら。
今度こそ心が折れてしまいそうなのに。



でも。
シヴァの目は。





他の大人たちとは全く違っていた。



ただただ。







優しくて。





温かい。
sv
えとがさ、心配で
et
そんなことのために呼んだわけ?
sv
違うよ
シヴァはゆっくりと立ち上がり。

あたしの目の前まで歩いてきた。



そして。
あたしの派手な金髪にそっと手を伸ばし。






小さな子供をあやすように優しく撫でた。
sv
本当はさ、寂しいんでしょ?
et
……っ!?
心臓が、ドクンと大きく跳ね上がった。





一番言われたくなかった。

一番隠していたはずの。









あたしの本音。
et
な、何言ってんの……! 
sv
えとは…
シヴァの言葉が。
あたしの心に貼られたトゲだらけの鎧を。


容赦なく剥ぎ取っていく。
sv
えとはえとのままでいいんだよ
et
やめて……っ
あたしの目から。
じわりと涙が溢れそうになる。



本当は。
この優しい手をもっと求めていた。




普通の女の子として。




みんなと一緒に笑いたかった。
et
あんたに何が分かるのよ!!
あたしはシヴァの手を強く振り払い。
涙がこぼれ落ちる前に。

保健室を飛び出した。




バタン、と激しくドアが閉まる音が廊下に響き渡る。
残された俺は。
赤くなった自分の手のひらを見つめながら。




小さく息を吐き出した。
sv
やっぱり、一筋縄じゃいかないか……
でも。
えとの瞳の奥にある涙を見て。

俺は確信した。




彼女はまだ。
諦めていない。




本当はみんなの元へ戻りたがっている。








だけど。
俺が安心したのも束の間だった。





廊下の向こうから。
信じられないほど暗い顔をしたたっつんが。

ふらふらと歩いてくるのが見えた。






日常のひび割れは。
俺が思っているよりもずっと早く。

そして深く。
12人の心を蝕み始めていた。
5階建てってどう思います?
後遺症残っちゃいますかね…






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