――――本編敦side
拙い拙い拙い!!
中也さんの暴走が止まらない………!!
今は必死に芥川と共に異能で止めているけれど、
僕達の小さな力だけじゃ、気休め程度にしかならない…ッッ
如何しよう…此の儘じゃ、ヨコハマが…………!!
中也さんは、必死に訴えかける芥川を
異能で空に浮いた儘、冷たく見下ろす。
そして、手を空に掲げたかと思えば………………
芥川に向かって、赤黒い怪しい光を放つ重力子を生み出す。
僕は虎の瞬足を最大限に活かし、芥川の方へと駆け出す。
芥川は一瞬驚愕の表情を浮かべたが、直ぐに意図を察したらしい。
素早く身を翻し、僕が滑り込んで__
異能力を爪で相殺することのできる程度のスペースを空けた。
異能の打つかり合う轟音と、視界を覆い尽くす閃光。
視界がクリアになったと思うと同時に、
___腹部に強い衝撃が襲い掛かる。
今の此の状況を打破出来るのは、太宰さんしかない
僕には白虎の根性骨がある分、芥川より耐えられる筈……
なら、僕よりも芥川の方が相応しい……!!!
最適解を求める間にも攻撃は止まらない。が、
僕たちの思考も、動きも、止めることは出来ない。
芥川が遠回しな優しい台詞を吐き、羅生門を駆使してその場から去る。
僕は、芥川の背中を見えなくなる迄見送り_____はせずに。
直ぐ、中也さんの方へと躰を向ける。
相も変わらず、冷ややかな視線が僕の躰を刺す。
まるで、縫い留められたかの様に足が硬直し、恐怖心を抱く。
然し怯まずに僕は声を上げた。
武力で勝てないのなら、語り掛けるしかない。
意識がないとは言うけれど、中也さんは中也さんだ。
姿形が変わっても、彼であることに変わりはない。
ふと少し離れた場所から、
見知った声、足音、人影、匂いがする。
中也さんも其方に目を向けた。
探偵社の皆が、此方へと走ってくる。
あぁ、よかった、一人じゃない____
そんな得も言えぬ安心感がこみ上げる。
しかし、戦況が其れを許さなかった。
直ぐ様降り懸る重力子を虎の動体視力と俊敏さで避ける。
先刻迄感じていた恐怖も、すっかり消え失せてしまった。
そう告げて彼の方へと向き直り、駆け出す。
『任せたよ。敦君』
大切な恩師の声が、頭の中に響いたような気がした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。