第4話

静かな池
380
2020/11/22 11:46
 目を開けると、そこは池の前だった。空は満天とまではいかぬ星空で、月は少し欠けている。辺りでは虫達が大合唱を開いている。
 池の前とはいえ、虫達の合唱大合唱を聴いていると言うのに、織田と安吾は、不自然な静けさを感じた。そして、辺りを見回す。____太宰がいない。
 潜書すると大抵真っ先に喋り出す太宰が居ないと、こうも静かに感じるのかと、二人はある意味感心した。
坂口安吾
暫くしても喋らないから、何かと思ったら……そもそも居なかったのか
織田作之助
太宰クンが喋り出しても、軽く受け流しとったけど……潜書して一番に太宰クンの声を聞かへんと、こうも寂しいんやなぁ
坂口安吾
ま、それが当たり前になって来ていたからな。いないとなると……既に地獄に堕ちたか?
織田作之助
不吉な事言わんとって!?太宰クンもヤワなんとちゃうし、まだ生きとるやろ
坂口安吾
それもそうだな。何せ
織田、坂口
成功、未遂含め、五回も自 殺した男
坂口安吾
だからな
織田作之助
せや、地獄に堕ちると言うよりは、死ねなくてまた「死にきれなかった」って嘆いてるんとちゃう?
織田は口元に手を当てながら、悪戯っ子の様に「ケッケッケッ」と笑っている。
 坂口も、うんうんと頷きながら織田を見ている。
織田作之助
にしても太宰クン、ホンマにどこ行ったんやろなぁ……。
坂口安吾
太宰のことだから、侵食者が来れば俺達を巻き込むだろうしな。
織田作之助
毎回ワシらまで巻き添えを喰らうし
織田は「ゔーん…」と考え込む様に唸ると、一旦口を閉じる。
 そして、少し考えたのちに「あっ」と言う台詞と共に再び喋り始めた。
織田作之助
太宰クンだけ、別の場所に飛ばされたんとちゃう?
人差し指を立てて、提案する様に言い。
坂口安吾
はっ、あり得るかもな。それで太宰も俺達が居ないことに気付き、今頃必死に探しているんじゃないのか?
坂口も、この場にいない太宰を揶揄うように喋った。
織田作之助
かも知れへんな。太宰クンの事やし、あっちに侵食者がおらへんかったら、ワシらの方に居ると思うて来るやろ
坂口安吾
だな。じゃあ、俺達も探してやるか
織田作之助
ほな行こ
____池の周りは、建物など無かった。灯りも無かった。あるのは、壊れかけた柵やベンチ、途中で土に埋れた木材の道である。
 地面には黄土色の草が生い茂る。時々それを、心地いい風が撫でると、サーッという音が鳴る。それが月に照らされ黄金色に輝き、二人の目を奪う。
 水面を見れば、月が揺れている。近くには
ポチャン。という音と共に、丸いが描かれる。
あ、沈んだ
水面に波紋が立った正体。誰も居ないと思われたその場所に、十代くらいの少女が立っていた。

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