目を開けると、そこは池の前だった。空は満天とまではいかぬ星空で、月は少し欠けている。辺りでは虫達が大合唱を開いている。
池の前とはいえ、虫達の合唱大合唱を聴いていると言うのに、織田と安吾は、不自然な静けさを感じた。そして、辺りを見回す。____太宰がいない。
潜書すると大抵真っ先に喋り出す太宰が居ないと、こうも静かに感じるのかと、二人はある意味感心した。
織田は口元に手を当てながら、悪戯っ子の様に「ケッケッケッ」と笑っている。
坂口も、うんうんと頷きながら織田を見ている。
織田は「ゔーん…」と考え込む様に唸ると、一旦口を閉じる。
そして、少し考えた後に「あっ」と言う台詞と共に再び喋り始めた。
人差し指を立てて、提案する様に言い。
坂口も、この場にいない太宰を揶揄うように喋った。
____池の周りは、建物など無かった。灯りも無かった。あるのは、壊れかけた柵やベンチ、途中で土に埋れた木材の道である。
地面には黄土色の草が生い茂る。時々それを、心地いい風が撫でると、サーッという音が鳴る。それが月に照らされ黄金色に輝き、二人の目を奪う。
水面を見れば、月が揺れている。近くには
ポチャン。という音と共に、丸いが描かれる。
水面に波紋が立った正体。誰も居ないと思われたその場所に、十代くらいの少女が立っていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。