ある日の昼、皆がまだ、昼食を食べてもない時間帯の頃。侵食者の知らせを受けた太宰治は、小走りながらも、自信ありげな表情で潜書室へ向かっていた。曰く「この俺が行けば、潜書なんて一瞬で終わらせられる」とのこと。
潜書メンバー
太宰治、坂口安吾、織田作之助
部屋に行くと、既に坂口安吾、織田作之助が待機していた。
織田と安吾は、それぞれ机に寄っかかったりしながら、太宰に声をかける。
否定した癖に己の行いを認めるいさぎよさに、織田は思わず立ち上がってツッコム。然し、日頃から芥川の話ばかりしている太宰はむしろ開き直って言う。
その熱意には、織田も安吾も気圧される。元より太宰の芥川好きは、知ってはいるものの、今の様に急にスイッチが入るため、頭が追い付かないのだ。
すると、耐え兼ねた安吾が立ち上がり、太宰の襟足を掴む。
その時、潜書室の扉が再び開いた。三人は思わず動きを止め、そちらを見やる。
確かに太宰は、先程自身で言った様に、ここに来る前に芥川の部屋には向かった。しかし、それは……いや、理由など説明する必要は無い。ただ太宰は、芥川の部屋に行っただけで、別に来てくれと呼んだ訳でもないのだ。
そう吠える太宰や、ケッケッケと悪戯っ子の様に笑う織田を、芥川を微笑ましそうに見る。「僕の興味本位だから」と言うと、織田は何故か少々残念そうにし、太宰は「俺なんかに興味を……!」と、喜び始め、坂口はそんな太宰をあやす。
そう文句を垂らすも、それは単におちょくっているだけと言うのは、説明せずとも察しがつく。そんな光景は、芥川にとって少し羨ましく見えた。
さて、そろそろ潜書に行かねばならない。太宰達が楽しそうに話すこの瞬間にも、侵食は止まらない。
織田と安吾は有碍書に手をかざし、太宰に目をやる。その目を見た太宰は「あぁーもう!」と声を部屋に響かせると、遅れて手をかざす。
眩い光が三人を包む。
瞬間、太宰が振り返り、芥川にこう言った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。