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第1話

導入
600
2020/10/23 09:57
 ある日の昼、皆がまだ、昼食を食べてもない時間帯の頃。侵食者の知らせを受けた太宰治は、小走りながらも、自信ありげな表情で潜書室へ向かっていた。曰く「この俺が行けば、潜書なんて一瞬で終わらせられる」とのこと。

 潜書メンバー
太宰治、坂口安吾、織田作之助

 部屋に行くと、既に坂口安吾、織田作之助が待機していた。
織田作之助
もう、遅いで太宰くん。また芥川センセのとこにでも行っとったん?
坂口安吾
いや、もしかしたら中原に絡まれていたのかも知れないぞ
織田と安吾は、それぞれ机に寄っかかったりしながら、太宰に声をかける。
太宰治
お前ら、俺が普段からそんな事しかやっていないと思ったら大間違いだ!確かに芥川先生のところには行ったけど!
織田作之助
いや結局は行ったんかい!
否定した癖に己の行いを認めるいさぎよさに、織田は思わず立ち上がってツッコム。然し、日頃から芥川の話ばかりしている太宰はむしろ開き直って言う。
太宰治
だって行くだろ!芥川先生だぞ!?行かない方が可笑しいって
その熱意には、織田も安吾も気圧される。元より太宰の芥川好きは、知ってはいるものの、今の様に急にスイッチが入るため、頭が追い付かないのだ。
 すると、耐え兼ねた安吾が立ち上がり、太宰の襟足を掴む。
坂口安吾
さっさと潜書に行くぞ、侵食は止まらないんだからな。お前の好きな芥川先生にも呆れられるぞ
太宰治
っ……分かったからそこを掴むな!
坂口安吾
掴まないと止まらないだろ
 その時、潜書室の扉が再び開いた。三人は思わず動きを止め、そちらを見やる。
芥川龍之介
やぁ、こんにちは
太宰治
あ、芥川龍之介先生!?どうしてここに……
坂口安吾
太宰が呼んだのか?
太宰治
呼んでねーよ!まずそんなおこがましい事出来る訳ないだろ!
確かに太宰は、先程自身で言った様に、ここに来る前に芥川の部屋には向かった。しかし、それは……いや、理由など説明する必要は無い。ただ太宰は、芥川の部屋に行っただけで、別に来てくれと呼んだ訳でもないのだ。
織田作之助
うーん、せやったら何でここにおるんです?何か用事でもあったんですか?
芥川龍之介
うーん、用事って程でも無いけど、太宰君が自信満々に潜書に行くって言って僕の部屋を出たからね。気になって着いてきたんだ
織田作之助
なんや、やっぱ太宰クンか。すんまへんなぁ、芥川センセ
太宰治
何で織田作が謝るんだよ!俺が潜書に自信を持つのは良いことだろ!
そう吠える太宰や、ケッケッケと悪戯っ子の様に笑う織田を、芥川を微笑ましそうに見る。「僕の興味本位だから」と言うと、織田は何故か少々残念そうにし、太宰は「俺なんかに興味を……!」と、喜び始め、坂口はそんな太宰をあやす。
坂口安吾
ったく、太宰はスイッチが入るとすぐこれだ
そう文句を垂らすも、それは単におちょくっているだけと言うのは、説明せずとも察しがつく。そんな光景は、芥川にとって少し羨ましく見えた。
 さて、そろそろ潜書に行かねばならない。太宰達が楽しそうに話すこの瞬間にも、侵食は止まらない。
織田作之助
ま、太宰クンの芥川センセ好きは今に始まった事じゃないんやけどな。……さてと、続きは潜書が終わってからや。そろそろ行かんと手遅れになる。ほな、二人共行くでぇ?
織田と安吾は有碍書に手をかざし、太宰に目をやる。その目を見た太宰は「あぁーもう!」と声を部屋に響かせると、遅れて手をかざす。

 眩い光が三人を包む。
 瞬間、太宰が振り返り、芥川にこう言った。
太宰治
芥川先生、行ってまいります!

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