親の泣いている姿なんて数えられるくらいしかない。
そんなお母さんがどうしてか、涙を流していた。
話を続けようとして開いた口が塞がらない。
感情の読み取れない声にビクッとする。
いつの間にかそこにいた七津がいつもの明るい表情を消して両親の元へ近づいていく。
やってしまった、と鳥肌が立った。
親を泣かせる姉を七津がどう思うか、想像がつく。
お姉さん……私のしたいことを言葉にするのは、ここではいけないことだったみたいだ。
お母さんを泣かせた。
それはこの家族の中では重罪。
「ごめんなさい」
罪だと言うのに謝罪の言葉が喉に突っかかる。
震える私を見ずに七津は二人を呼ぶ。
あとに何が続くのか、想像したくなくてギュッと目を瞑った。
『もう、やめよう』
呆気に取られて、七津にほんの少しの期待を持って顔を上げる。
七津はお母さんの背中を一度撫でて立ち、ゆっくり私の方へ向かってきた。
隣に立った容姿の似ていない双子の妹は堂々としていた。
その姿勢が、私を庇うためのものであることが純粋に嬉しい。
七津がいなければ私は比べられて、自分に自信を持てないなんていう状況にはならなかったかもしれない。
何度そう思ったかわからない。
けれど、七津は私を陥れるために今の姿になったわけじゃない。
自分らしさを理解して、ありのままでいる道を自分で作っている。
凛々しい自慢の妹だ。
切っても切り離せないような双子の私達だけど、それぞれに"自分"を持ってる。
それを比べるのはいくら親であっても許容できるものではない。
七津の言葉で、自分の行為に自信が持てた。
「私達が初めにできるのは七緒に謝って今までの分、応援してあげることだよ」と七津ははっきりと言った。
「そうね……」
お母さんが涙を拭って「七緒」と本当に、一音一音を噛み締めるように優しく私の名前を呼んだ。
「ごめんなさい……っ」
お母さんに続いてお父さんも「すまなかった」と頭を下げた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。