第11話

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2024/06/28 13:25
寝転がって雨に打たれながら俺はそうだ、と思いついた。
虫けらのように毎日毎日、もううんざりだ。
少しずつこれ以上動けない限界の状態に体が慣れて、立てるまでになった。
幸いここは屋上。
屋上で、いじめられている学生が未来や辛い毎日に絶望してやることなんて大抵決まってるだろ。
ゆっくり柵を頼りに下にクッションになってしまうものがない場所へ移動する。
ようは身投げだ。
これから俺は飛び降り自殺で死ぬのだ。
そう決めて初めて、死にたいと願う人間の気持ちが分かった。


いじめてくる奴らに会うまで自殺する人間の心情なんて辛い、苦しいだけなんだろうと思っていたが、実際に自分が同じ立場に立ったらそれは少し違う。
無だった。
苦しみから逃れられることへの歓喜はなかった。
ただ、やっと死ねるのだということを頭の中に思い浮かべ足を動かす。
力の入りにくい体を柵でどうにか支えながら越える。
さっきまで吹いていた風も収まり、雨は空から真っすぐ俺を突き刺した。
咄嗟に思いついたことで俺が死んだ後のことは頭になかった。
そして、今の状況にも自分が柵を越え、死ぬのだということ以外気にも留めなかった。
「大樹さん!」
聞きなれた声に霧がかかり、見えなかった部分がさあっとクリアになる。
声のした後方を見ればそこには教師にしては奇抜すぎる金髪の女性、俺のクラスの副担任が立っていた。
_大樹優真@おおきゆうま_
大樹優真おおきゆうま
せんせ……
「そんなところにいたら危ないでしょう。ゆっくり柵を越えてこっちに来なさい」
俺を刺激しないためかゆっくり、説教にならないような口調を意識しているのが伝わってきた。
ようやく物事の判断ができるくらいにはっきりしてきた頭で、俺としても他人の目の前で死ぬのは避けたいなと考え、柵の内側へ。
あからさまにホッとしている先生が雨で濡れているのを見て、屋上への階段に放り投げられた鞄の中に濡れた時用のタオルの存在を思い出し、急いで先生に渡す。
「え、いいわよ。大樹さんの方が濡れてるじゃない」
_大樹優真@おおきゆうま_
大樹優真おおきゆうま
……傘持ってきてないので結局濡れるんです。女性は体冷やしちゃいけないって聞きましたし
本当は傘は持ってきている。
でも、奴らのことだからきっと俺の傘をどこかに隠すか使って帰るかするだろう。
それに、びしょびしょの俺より少し濡れているくらいの先生が使った方がタオルの意味がある。
「ありがとう」
お礼に「いいえ」と返して帰ろうとすると「この後、予定あるかな」と聞かれたので首を横に振った。
「なら、職員室前の……心の教室でお話ししない?」

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