第10話

▷漆の怪_七不思議の秘密 後編
59
2025/08/24 12:01 更新
七不思議が1番、トイレの花子さんが消滅し、凪呂、翔憂、廻斗の3人は虚空を鋭く見つめた。

想楽と鴎はすがるような気持ちで返事を待つ。

???
……その前ニ、ソイツらヒナたちヲどうにカしタラどうダ?

全員
ッ!


花子さんが消滅したことで忘れていたが、操られていたヒナたちは…?と思いハッと視線を向ける。


気絶しているようだが、苦しんではいない。
大した怪我もしていなかったので、ほっと一息つく。

翔憂
翔憂
…、もう、ええやろ?こーくん
廻斗
廻斗
嘘を吐いても意味はない。俺らの目は誤魔化せない
凪呂
凪呂
君の気持ちを教えて。応えてよ!






???
わかったよ


観念したように呟いてから、姿を現した。

翔憂
翔憂
ッ!!
廻斗
廻斗
その……、姿……ッ
凪呂
凪呂
変わらない…ね




凪呂たちが驚くのも無理はない。
洸の姿はあのときと__、小学6年生のときのままだったからだ。



感情が伝わらない、機械のような声ではなく、少し気まずそうな、人間らしい声で話し始める。

洸
ひさ……しぶり、かな
翔憂
翔憂
…ほんまに久しぶりやわ

想楽
想楽
えと……
鴎
俺ら…、もしかして邪魔か、?
廻斗
廻斗
いやいや、全然そんなことはないぞ
凪呂
凪呂
むしろ、ここにいてくれたほうが…


そんな会話をしていると、バッと洸が頭を思い切り下げた。
突然のことに5人が言葉を失っていると、洸が頭を下げたまま、ぽつりぽつりと語り始める。

洸
ごめん、本当に…

洸
実は俺さ、事故に遭って翔ちゃんたちに会う前に、目、覚めてたんだ
戦友組
え…?
凪呂
凪呂
それってどういう…
洸
あの日、…翔ちゃんとかいてぃーがお見舞いに来てくれた日の少し前、俺は目を覚ました
洸
だけど、俺は記憶がなかった
鴎
記憶、喪失?
洸
うん、検査とかしてわかったんだ。お母さんのことしか、わからなかった
洸
なろくんたちの写真を見せてもらってもね
洸
本当はお見舞いに来てくれていること、気付いていた
洸
だけど、どうしても誰かわからなくて…、俺が起きたこと言わないでくださいって言った
翔憂
翔憂
じゃあ、何であの日…
洸
毎回…ッ、俺のこと心配な3人に嘘を吐くのが辛かったから
洸
もう、やめようって。やっぱり、誰かはわからなかったから、お母さんに色々聞いてあだ名とかも…


廻斗
廻斗
今は、オレらのこと、わかるのか?
洸
鮮明に、覚えてるよ





洸
そういう条件だったから
凪呂
凪呂
条件?


さっき聞いたことを思い出したように、想楽が声をあげた。

想楽
想楽
あの…っ
想楽
想楽
さっき、翔さんから聞いて…その死んじゃう前のこと
想楽
想楽
急に苦しみ始めて、一度消えて、戻ったときには、…って話だったと思うんですけど、それに何か関係があるんですか?
洸
うん……、あのとき、……いや、記憶喪失だってわかったときから声がしていた
鴎
こ、…え?


こくっと頷いてから、やっと顔をあげた。

洸
『記憶を戻してやろう』、『七不思議』そんな言葉がずっと…
翔憂
翔憂
七不思議…ッ!?
洸
うん。俺は七不思議よりも記憶を戻してやろうっていう言葉が気になっていた
洸
そして、翔ちゃんとかいてぃーと直接喋って、声がはっきり聞こえた
洸
俺は心で願った。『どうなっても良いから、記憶を戻してくれ』ってね



洸
そしたら、よく言ったって声が聞こえて、身体中に痛みが走って…気付いたら、通うはずだった中学校にいた
洸
煙が前にいて、そこからずっと聞こえていた声が聞こえた
洸
そのときに…ッ!


怒りで顔を歪めながら、言葉を並べていった。








    『“せい”を代償にお前は記憶を取り戻した』



そう煙が話したのだと言う。




洸
死んだって悟ったよ。生きることを代償に記憶を取り戻したって意味はないのに…
洸
それからは、もう…
洸
俺じゃなくなっていった
洸
多分、身体を乗っ取られていた



洸
本当は今みたいに抜け出せること、知ってた。だけど、全てがどうでもよくて…自暴自棄になって、七不思議を操ることも、人に危害を加えることも…
洸
善と悪の区別すら、つかなくなっていった







洸
こんな俺、もうダメだよね…
洸
皆のこと、散々危険な目にあわせて…

洸
潔く、嫌ってくれ
洸
そしたら、俺はあの世あっちに行けるから









1人で素直な気持ちを語る洸の背中はとても小さく見えた。
そして、震えているように見えた。



そんな洸の背中に、翔憂は手を添える。
廻斗も、凪呂も。

想楽も鴎も。



だが、洸はそれを拒んだ。
距離を取る。


洸
ダメだよ…俺は優しくされちゃいけない…ッ




翔憂
翔憂
なあ、こーくん。ごめんな、わかってあげれなくて
翔憂
翔憂
あのとき、助けられていたら…いやそもそも、あのとき記憶がないって気付けていれば…
凪呂
凪呂
苦い記憶として、心の奥に仕舞って、なるべく思い出さないようにしていてごめん
廻斗
廻斗
こーくんが悪いんじゃないよ。人は死んだら生き返らないけど、そこにいた人の記憶には残る。それを大事に扱えなかった
洸
違うよ、違う…ッ!俺が!俺が…ッ!!




洸
ごめん!ごめんッ!許されないのもわかってるのに…!



想楽と鴎には凪呂や翔憂、廻斗も洸と同じくらいの背丈に見えた。

忘れるわけはないが、思い出すのは辛いという感情が渦巻き、自暴自棄になってしまったのだろう。





洸
ねえ、俺はもうそっちにいけないけど
洸
頑張ってね。生きるって大変だよね
洸
でも、死ぬということも辛い
洸
そうすると自暴自棄になってしまうけど、皆には皆がいるから
洸
頼ればよかったって今更気付いた




洸
後悔せずに生きて生きて、90年後くらいにまた会おうよw
洸
待ってるよ、この姿のままで





洸は涙を溢した。

それを合図に洸の姿が薄れていく。



完全に消えてしまう前に凪呂が抱きついた。
洸は驚くが、笑みを浮かべてぎゅっと抱きしめ返す。

翔憂も廻斗も洸を覆うように抱きしめた。




ニコニコと見守る想楽と鴎を洸は見て、『おいで』と言うように笑った。






2人は少し躊躇ったが、近づいていく。












完全に消えてしまってから、5人で抱き合った。














もう、大切な人を失わないように_____。








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