新学生たちは先程の『魔女の戦い』の感想を語り合いながら、興奮冷めやらぬ様子で闘技場を後にする。
もちろん、クロエとそのパートナーであるソウジロウもその中の一組であった。
入学式はこれで終わり。
新入学生たちは闘技場で解散、今日はもう帰宅してよいことになっている。
だが、クロエはなんとなくソウジロウと別れ難く、校門までの道のりを歩きながら彼に話しかけ続けていた。
つんと澄ました態度ではあるが、ソウジロウはちゃんとクロエの問いかけに応えてくれて、会話はとりあえず成立している。
ソウジロウは目を丸くした。クロエは彼の返事を聞かずに、そのグレーのスーツに包まれた腕を引っ張って、小さく手を振る両親がいる校門前まで連れて行く。
クロエが袖を放すと、ソウジロウはぼやきながらも制服を軽く整え、クロエの両親に向き直った。
と、ソウジロウのきっちりした挨拶は、弾けるような笑い声によって遮られた。
クロエの母は、少し、いやかなりはしゃぎ気味に早口に話す。サイズがぴったりの手袋に覆われた手のひらは、自身の両頰にあてられている。
母、クレールはいくつになっても夢見る乙女のような仕草の似合う、可愛らしいという言葉がぴったりの女性なのだ。
母とは反対に、ゆっくりとした声で父も自己紹介をする。
父・アルバンは、黒縁眼鏡の奥の瞳は静かで知性的でありながら、体格はがっしりとして堂々としたものだ。
実際、ノイライ一家を見た人たちはだいたいそう言うのだ。
あそこの娘のクロエは両親によく似たと。
母譲りの薄緑色の髪と緑色の瞳。
父譲りの高めの身長に、すらりと長い足。
顔立ちもご両親それぞれのいいところをうまくもらいましたね、と言われることが多い。猫のような瞳の形やつんとした顎は母親からで、すうっと高く整った鼻やくっきりとした眉は父親からだ。
娘であるクロエとしては、少し複雑な思いである。両親のことは嫌いではない。むしろ大好きなのだが、自分の容姿が自分だけのものではないということが、なんだかもやもやすることもある年頃なのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。