第11話

第一章(6)
340
2021/08/24 09:00
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
ほんと、すごかったねぇ。上級生たちの『魔女の戦い』!
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
あぁ……そうだな
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
ピンクのローブ・ア・ラ・フランセーズの先輩の文字通り超火力の魔法連射も凄かったし!
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
紫のバッスル・ドレスの先輩が魔法で強化した体術と、無駄なく魔力を使った防御とで、それらを捌く様は本当に見事としか言えなかったな
新学生たちは先程の『魔女の戦い』の感想を語り合いながら、興奮冷めやらぬ様子で闘技場を後にする。
もちろん、クロエとそのパートナーであるソウジロウもその中の一組であった。
入学式はこれで終わり。
新入学生たちは闘技場で解散、今日はもう帰宅してよいことになっている。
だが、クロエはなんとなくソウジロウと別れ難く、校門までの道のりを歩きながら彼に話しかけ続けていた。
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
ソウジロウは留学生だし、どこかに下宿してるの?
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
あぁ。一人暮らしがよかったのだが、それは家のものに却下されてな。男子留学生たちを専門に受け入れている下宿に世話になっているんだ
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
それ、どのあたりにあるの?
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
学校から山手に少し行ったところだが
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
ねぇねぇ、そこに遊びに行ってもいい?
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
だめに決まっているだろう。男子ばかりなんだぞ
つんと澄ました態度ではあるが、ソウジロウはちゃんとクロエの問いかけに応えてくれて、会話はとりあえず成立している。
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
ねぇねぇねぇねぇ、ソウジロウ
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
今度は一体なんだ、クロエ
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
あっちにうちの親たち見つけたから、せっかくだし挨拶していってよ
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
は? 親に挨拶って、お前
ソウジロウは目を丸くした。クロエは彼の返事を聞かずに、そのグレーのスーツに包まれた腕を引っ張って、小さく手を振る両親がいる校門前まで連れて行く。
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
ちょ……待て! せっかくの新しい制服の袖をさっそく破ってくれる気か!
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
あ、ごめん……
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
パートナーの女子に入学初日から制服を台無しにされるとか、どんな男なんだ俺は
クロエが袖を放すと、ソウジロウはぼやきながらも制服を軽く整え、クロエの両親に向き直った。
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
……っと……申し訳ありません、こんなところをお見せして。自分は、ソウジロウ・ヒノ。お嬢さんにはこの学園での三年間お世話になることと思います。何かとご迷惑をおかけすることも多いでしょうが……
と、ソウジロウのきっちりした挨拶は、弾けるような笑い声によって遮られた。
クロエの母
うふふふふ、初めまして! こんな可愛い子がうちのクロエのパートナーだなんて嬉しいわ!
クロエの母は、少し、いやかなりはしゃぎ気味に早口に話す。サイズがぴったりの手袋に覆われた手のひらは、自身の両頰にあてられている。
母、クレールはいくつになっても夢見る乙女のような仕草の似合う、可愛らしいという言葉がぴったりの女性なのだ。
クロエの父
落ち着かないか、クレール。……あぁ、すまないねソウジロウ君。娘と妻が失礼した。僕はクロエの父でアルバンというんだ。よろしく
母とは反対に、ゆっくりとした声で父も自己紹介をする。
父・アルバンは、黒縁眼鏡の奥の瞳は静かで知性的でありながら、体格はがっしりとして堂々としたものだ。
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
えぇと、よろしくお願いします……。クロエ嬢は、お二人によく似ておいでなのですね
クロエの母
あらあら、ソウジロウ君もやっぱりそう思う?
クロエの父
はは、よく言われるんだよ
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
むぅ……そんなに似てるのかな……?
実際、ノイライ一家を見た人たちはだいたいそう言うのだ。
あそこの娘のクロエは両親によく似たと。
母譲りの薄緑色の髪と緑色の瞳。
父譲りの高めの身長に、すらりと長い足。
顔立ちもご両親それぞれのいいところをうまくもらいましたね、と言われることが多い。猫のような瞳の形やつんとした顎は母親からで、すうっと高く整った鼻やくっきりとした眉は父親からだ。
娘であるクロエとしては、少し複雑な思いである。両親のことは嫌いではない。むしろ大好きなのだが、自分の容姿が自分だけのものではないということが、なんだかもやもやすることもある年頃なのだった。

プリ小説オーディオドラマ