五本、指を立てて微笑む男の人。
五人か……思っていたよりも多いな。
完成、ということは、
ヨリシロは、一年間この森で過ごす。
じゃあその人は、一年前の今日にここに来たんだ。
そして、ボクも一年後には………
何故だろう、怖いはずなのに、
わくわくする。
にやりと浮かべられた男の人の不気味な笑みさえも、今は輝いて見える。
もしこれが本当に夢なら、なんて素敵なのだろう。
平凡な毎日に終止符を打つことができる、それがどれだけボクの心を高ぶらせ、どれだけボクをそそらせるのか。
今日は、人生で一番笑った日だ。
そして男の人は、誰も居ないはずの木陰を見た。
そう、誰も居ないはずの木陰。
…そう、居ないはず、居ない……はず?
いや、居た。
そこには、少し不機嫌そうな表情を浮かべた青年が立っていた。
トン、と背中を押される感覚。
追い風が行け行けとボクに促す。
ボクはそれに便乗するように、走っていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!