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第6話

二話:透明な境界線
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2026/02/28 14:55 更新








(なまえ)
あなた
⋯⋯あの薫さん?だったっけ





その『さん』付けの響きが、心臓を直接ナイフで削り取っていく


昨日まで『薫くん』と呼んで、俺の腕の中で眠っていた彼女


今は、ジャムの好みを当てただけの俺を『魔法使い』と呼び、









羽風 薫
羽風 薫
(⋯⋯やめてよ。そんなふうに、知らない人を見るような目で笑わないで)


呼び出したい


今すぐ彼女を強く抱きしめた『俺だよ、君の恋人の羽風薫だよ!』と泣きわめきたい


けれど、そんなことをすれば、彼女を怯えさせ、



残されたわずかな心の安らぎさえ奪ってしまうだろう











公演のベンチ


彼女が『懐かしい気がする』と笑った瞬間、視界が歪みそうになった


喜びなんかじゃない


それは、俺たちのさん年間が、彼女の中ではもう








『説明のつかない、ただのデジャヴ』に成り下がってしまったという証明だ









羽風 薫
羽風 薫
⋯⋯そうだね。
きっと、『前世』で約束でもしてたのかもね




冗談めかして言った声が、自分でも驚くほど、震えていた


彼女は『ロマンチックだね』なんて無邪気に笑っている





その笑顔を守るために、俺は今














羽風 薫
羽風 薫
(目の前で死んでいく自分の心を必死に殺し続けている)







彼女が幸せそうに空を見上げている隙に、俺はそっと顔を背けた








羽風 薫
羽風 薫
(泣いちゃダメだ。
 俺が泣いたら、彼女の『今日』が壊れちゃう)


羽風 薫
羽風 薫
(世界で一番愛している人に、愛していると言えない
 隣にいるのに、100万光年も離れているような絶望)
羽風 薫
羽風 薫
(俺は、歪な笑顔の仮面を被り直して、彼女の『新しい、名もなき友人元恋人』)を演じ続ける


























心のなかで









何度も、





















何度も、



































































彼女の名前を呼び続けながら

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