その『さん』付けの響きが、心臓を直接ナイフで削り取っていく
昨日まで『薫くん』と呼んで、俺の腕の中で眠っていた彼女
今は、ジャムの好みを当てただけの俺を『魔法使い』と呼び、
呼び出したい
今すぐ彼女を強く抱きしめた『俺だよ、君の恋人の羽風薫だよ!』と泣きわめきたい
けれど、そんなことをすれば、彼女を怯えさせ、
残されたわずかな心の安らぎさえ奪ってしまうだろう
公演のベンチ
彼女が『懐かしい気がする』と笑った瞬間、視界が歪みそうになった
喜びなんかじゃない
それは、俺たちのさん年間が、彼女の中ではもう
『説明のつかない、ただのデジャヴ』に成り下がってしまったという証明だ
冗談めかして言った声が、自分でも驚くほど、震えていた
彼女は『ロマンチックだね』なんて無邪気に笑っている
その笑顔を守るために、俺は今
彼女が幸せそうに空を見上げている隙に、俺はそっと顔を背けた
心のなかで
何度も、
何度も、
彼女の名前を呼び続けながら
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!