その日は、あまりにも穏やかな朝だった
昨日、彼女は少し体調が良さそうで、『明日は海に行きたいね』なんて
約束をして眠りについた
俺はキッチンでコーヒーを淹れ、彼女を起こしにに寝室へ向かった
寝顔を見て、いつものように冗談を言って、おはようのキスをする
そんな当たり前の
『アイドルじゃない俺の日常』が続いていく
はずだった
彼女の口から溢れたその一言が、鋭い氷の刃になって俺の鼓動を止めた
⋯⋯冗談だよね?
そう笑って返そうとしたけれど、彼女の瞳を見て、言葉が喉に張り付いた
そこに宿っていたのは、昨日までの深い愛でも、最近の不安でもない
知らない男を警戒する
純粋で、透明な『他人への拒絶』だった
俺は、震えそうになる膝を必死で押さえて、一歩後ろに下がった
鏡の前で何度も練習した、完璧な笑顔を作る
でも、今この瞬間の笑顔が、人生で一番、醜くて歪んでいる自覚があった
嘘だ
俺は君の、
君を誰よりも愛していて、
君の人生のすべてを知っている男なんだ
そう叫びたい衝動を、噛み締めて飲み込む
俺の名前は『羽風薫』
でも、今の彼女の世界には、
そんな名前の椅子はもうどこにも用意されていない
震える声で提案すると、彼女はまだ疑わしそうに、でも少しだけ安心したように頷いた
その仕草ひとつに、俺は千切れそうなほどの愛おしさと、
吐き気がするほどの絶望を感じていた
もう一度、
終わりのない地獄のような、それでいて、彼女の側にいられる唯一の救い
俺の
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。