さらりと肌を撫でる冷たい風がアウラの髪を揺らし、それを感じながら薄暗い天井を見上げる。
特に何の変哲もない天井から直ぐに視線を外し、ゆっくりと目を閉じた。
視覚を塞ぐと、見えていなかったものが見える。
自分の魔法が遂に制御化を離れたのを感じた。
わかっていたことではあった。
秘密を暴くことが必ずしも幸せに繋がるなんて、そんな訳はなかった。
それでも、と思ってしまったのがいけなかったのか、残酷な現実が虚ろな瞳の彼女を嘲笑う。
ゆらゆらと光源になっていた松明が風に吹き消されて、目の前の日記に記された文字はもう見えなくなる。地下の不気味に通る冷たい風もかき消され、アウラにとって馴染み深く、そして憎たらしい荒れた風が地下を揺らした。
先刻までの自信に溢れた風とは一変、不安定で痛い突風はより鮮明に映し出される記憶が真実であることを突きつける。
こんなことのためにここまでやってきたわけではなかった。利用された怒りより、結局力になれなかった無力な自分への怒りと、ほんの少しの後悔が涙になって頬を伝う。
どこまでも愚かだった。そして無様だった。
こんな状況でもそれでも、と思ってしまうのだから、救いようが無いなとつくづく思ってしまう。
悔しい。恥ずかしい。
でも、これで良かったと思ってしまった。
彼らが、彼女らがこれを最善策としたのなら_
_初めて私は、みんなの役に立てただろうか。
目に僅かに光が戻る。
一種の諦めでもあり、最後の抵抗でもあり、
そして願いでもある。
ゆっくりと大地に足を付けて、1歩ずつ進む。
もはやこの風たちは彼女の制御下を離れている。
彼女の皮膚を無数の風が薄く裂いていった。
それでも大地を踏みしめる。
ソルムが作った、偽物の墓の前に立つ。
今まで大切に保管されてきて、そしてこれからもそうあるべきこの本は、自分の魔法なんかに傷つけられる訳にはいかないのだ。
そっと手を離せば、ゆっくりと墓の上に置かれる。暴風で聞こえないが、きっと優しい音がしたんだろう。
その事を裏付けるように、墓と一緒に優しい魔法で守られている。
きっとこれも、アウラが大好きな優しい彼が、不気味な笑みを浮かべてかけた魔法なんだろう。
これで、大丈夫だ。護られるべきものは護られるし、もう心配することは無い。
あとはよろしくお願いしたいところだが、出来れば痛くしないで欲しいというのは些かわがまますぎるだろうか。
ここには軽口を叩く相手がいないから返事は期待できないが、それでも彼女は笑みを浮かべた。
今度こそ、光を失った目を宿した身体は暴風の傀儡と化していく。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!