森を抜けるまでは手助けしてくれたとはいえ、森を抜けたらすぐ王都が目の前にある訳では無い。
赤髪の少年フランマは、自分の利のためではなく、ただ顔をおそらく1目見たであろう者の身を救うため身を粉にして走っていた。
かれこれ半日は走ったかな…というくらい。彼の脚力だと、馬車や馬を呼ぶ時間があるなら走った方が早いと判断したのだ。
そしてそろそろ王都が見えるだろうなというところだ。だから感じる。
身体が重い。足が上がらない。疲労だとかそういうんじゃなく、もっと本能的なところでここから先へ進むのを拒んでいる。
まぁ、仕方の無いことではあるだろう。一端の凄腕冒険者と言えど、巨大竜巻の前ではほとんどの人間が塵と化すしかないのだから。
知識としては知っている。しかし実物を見たのはこれが初めてのことだった。
そして初めてでも、これが自然災害ではなく人為的なものだろうことはわかった。これは魔法だと。
にしても大きいものだ。まぁ間に合わなかったと考えるのが妥当だろう。
それでも自分が戦わなければならないという義務が発生しただけで、王都から離れている為動かない不気味な竜巻は人々を襲うことも無さそうだ。
精神的な恐怖はかなり植え付けていることだろうが。
そう、ちょうど…ここにいるフランマのように、初めて見た竜巻に恐怖し震える人間が量産されているのだろう。
行くしかない。なのに足は竦む。1人で戦えると思うほど彼は死にたがりではなかった。
膝を無理やり抑えようにも、手も震えているから意味をなさない。
これは困った、身体の反応とは対照的に脳は極めて冷静に回転する。
麻袋に入った世界樹の葉は、彼女には効くらしいがフランマには一切力を与えてはくれないらしい。
手も添えても、ただの葉っぱにしか感じなかった。
もしこのまま震えている間に彼女が力尽きて死にでもしたら、随分とマヌケなものだ。
絶対に助けると言っておいて戦うことすら出来なかったと報告するのか。
まぁ、戦うことになれば勝ち目は薄いから、戦いにならないように戦う余力をかなぐり捨ててでも全力で走ってきたのだが。
走れば間に合う計算のはずだった。想定外があったのが悪いのか。
そんなわけはないだろう。
その時。人影を見た。
高速で空中に飛んで、輝く刀身を上段から振り下ろし…
大きな竜巻を両断した。
フランマは、彼を知っている。
彼の人生の中で、1番大好きな人だ。
1番大好きで強くてかっこいい人。
久しぶりのその人の剣筋は、相変わらず美しく優しい剣だった。
この瞬間、竜巻を生み出した暴走する魔女よりも重要な何かが彼の中で天秤を大きく傾かせる。
力尽きそうな旅人から一変、水を得た魚、或いは走るのが好きな早馬のように駆け出す。
ニヤリと笑った師匠と呼ばれたその男に襲いかかる魔法全部を焼き払いながらフランマは叫ぶ。
竜巻を、斬ったとは思えない口調で軽に問う師匠に、弟子は笑って返事をする。
何もかもお見通しなふざけた師匠が何故こんな都合よくこの場にいるのかは疑問だが、そんなこと聞いても今は答えてくれないだろう。
この間も魔法は無慈悲に襲いかかってくるのだから。
フランマは麻袋に左手を突っ込み、3枚をソルムに渡す。
背中合わせに会話しながら魔法を捌く。
先程の竜巻は両断されたが、それでも濁った風が視界を狭める。
目的の少女の姿は確認できなかった。
それでも向かう場所は同じ。
こうして、お互いがいつかと夢見ていた師弟共闘は、ソルムからすれば必然、フランマからすれば不思議な奇跡によって幕を開けた。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。