第43話

第四十一話
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2025/12/17 09:26 更新
 ——静かだった。

 さっきまで空間を引き裂いていた黒糸の嵐が、嘘みたいに止まっている。

 音も、重さも、色さえも薄れて、世界は“縫い目の内側”だけを残して凍りついた。

 透は、まだ灯の手を握っていた。
 離せば、すべてが終わってしまう気がして。
一ノ瀬透
灯…
 呼ぶと、灯はゆっくり顔を上げた。
 黒糸は彼女の背後で静止している。

 まるで——判断を待っているみたいに。
……灯の願いはね……
 声が震える。
お兄ちゃんに選んで欲しかったの。
お兄ちゃんに必要とされたかった
 その言葉は、黒糸よりも重く、鋭かった。
灯は、守られる存在でも、代わりの痛みでもなくて……
“お兄ちゃんの隣にいる存在”になりたかった
朝倉芽吹
灯ちゃん。
それは、悪い願いじゃないよ
灯の瞳が揺れる。
でもね、芽吹ちゃんが来て……
お兄ちゃんが前に進んで
灯だけ、時間が止まったままで……
 灯は、自分の胸を掴んだ。
苦しかった
置いていかれるのが、怖かった。
だから、黒縫いの“役目”を受け入れた
 黒糸が、微かに脈打つ。
役目があればね、お兄ちゃんは…灯を必要としてくれると思ったの。
透は、強く首を振った。
一ノ瀬透
違う
一ノ瀬透
灯。
お前は“必要だから”大事なんじゃない
 灯が、はっとする。
一ノ瀬透
お前が、灯だから大切なんだ
 その瞬間、黒糸がプツンときれた。
朝倉芽吹
透!
 芽吹の声が、今度は完全に“隣”から聞こえた。

 視界の端に、白い光が立ち上がる。

 芽吹の姿が、半透明のまま現れる。
一ノ瀬透
芽吹…
朝倉芽吹
リンク、安定した。
透、今のあなた……
灯ちゃんの心に直接触れてる
 小さな破裂音がした。
 イヴが舌打ちしたからだ。
イヴ
……あーあ。
一番面倒な形になっちゃった
 イヴの白糸が空間に広がる。
イヴ
灯。
透を選ぶなら、芽吹を切り離しなさい。
そうすれば、この黒糸は安定するわ。
一ノ瀬透
やめろ!!
一ノ瀬透
灯、俺が何とかするから…
あいつの言葉は聞かなくて良い。
 透が叫ぶ。

 灯は、唇を噛みしめた。

 迷っている。


 でも——
その迷いは、もう“黒縫いに与えられたもの”じゃなかった。
……イヴ
灯は……
“選ばれる存在”になりたかった
 黒糸が少しずつほどけていく。
でも……
それって、誰かを縛ることじゃない
 灯は透をまっすぐと見つめる。
お兄ちゃんが生きてる世界を……
お兄ちゃんが大好きな人を…
灯は、壊したくない
 イヴの表情が、初めて歪んだ。
イヴ
チッ…
灯は……
“透の隣にいたい”
それだけでいい
 その言葉と同時に——
 黒糸が、完全に裂けた。
 轟音。
 縫い目の空間が崩壊し、光が溢れる。
朝倉芽吹
透、今!!!
 その声と同時に、透は灯を抱き寄せた。
一ノ瀬透
灯、帰ろう!!
うん!!
 灯は、初めて“妹の顔”で笑った。

 次の瞬間——
 世界が、真っ白に弾けた。
裂け目が消え、黒糸が霧のように散っていく。
田村美菜
……消えた……?
美菜が呆然と呟く。
三鷹陽太
わ、わぁーーー!!
クロノス先輩、成功したんすね!!
 陽太の声が震える。

 ヴォルトは雷針を下ろし、息を吐いた。
ヴォルト
……チッ。
あの黒縫いの核……
完全じゃねぇが、止まったか
 市場は、かろうじて崩壊を免れていた。
 透は、床に膝をついていた。

 腕の中に、眠ってる灯がいる。

 呼吸は、穏やかだ。
朝倉芽吹
透…
 芽吹の声はすぐそば。
一ノ瀬透
…なぁ、芽吹
朝倉芽吹
うん
一ノ瀬透
俺……
やっと……
灯を“縛らずに”抱きしめられた気がする
 芽吹は、少し笑った。
朝倉芽吹
それでいいんだよ
朝倉芽吹
よかったじゃん!!
 そのとき——

 灯の手首に残っていた黒糸の痕が、
 淡い光の縫い目へと変わった。

 それは、消えなかった。

 “選んだ証”として。
 けれど。

 誰も気づかなかった。
 崩れた縫い目の奥で——

 イヴが、静かに別の糸を引いていたことを。
 第3章しゅーりょー!!
 
 難しくなってきたので、3章のまとめします!

 👇ここまでのまとめ👇

 ✔︎灯=黒縫い→助けた!

 ✔︎灯は透の「痛み」などを吸収
  →透の記憶がズレるのは殆どこれが理由!

 ✔︎芽吹復活!

 ✔︎イヴ=黒幕

疑問あったら、コメント欄でお気軽にお声掛けください!

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