目を覚ましたとき、透は天井を見ていた。
白い。
病室……ではない。
少しけむっぽい…縫写市場の応急隔離室だ。
声は、少し掠れていた。
軽い声。
振り向くと、椅子に座って端末を弄る莉子がいた。
莉子の口調は、少し怒っていた。
その一言で、莉子は少し呆れたように笑った。
胸の奥が、きしんだ。
救えた。
でも——
全部じゃない。
透は、自分の胸に手を当てた。
そこにあるはずの“重み”が、
少し形を変えて残っている。
(……灯を救ったのに)
満たされない。
安堵より先に、
自分への嫌悪がじわりと滲んでくる。
大好きな灯が助かってよかった。
それは変わらない。
(俺は……
あのとき、灯を救いたかった?
それとも——
“選ばれる自分”を守りたかっただけか?)
答えは出ない。
ただ、胸が痛い。
透は、無意識に隣を見た。
……いない。
あれほど近くに感じていた芽吹の気配が、今はない。
莉子は一瞬だけ言葉に詰まった。
透は目を閉じた。
(まただ)
大事なところで、いつも。
(守れたと思った瞬間に……
俺の手から、零れていく)
そう呟いて、壁を殴った。
じんじん痛む拳が、自分をここに繋ぎ止めている気がした。
一方、縫写市場の外縁。
崩れかけた通路で、陽太が壁に寄りかかっていた。
美菜は即答したが、声が少し揺れていた。
美菜は黙ったまま、拳を握る。
(……認めたくないけど)
(あの人は、
誰かに頼るのが下手すぎる)
誰もいない縫写層の奥。
イヴは、壊れた糸の残骸を指でなぞっていた。
けれど、怒ってはいない。
むしろ、楽しそうだった。
笑い声がどんどん大きくなり、
イヴはうっとりと鏡を見つめる。
イヴは、「バカだなぁ」と言いながら、
新しい糸を取り出す。
黒でも、白でもない。
灰色の糸。
「休ませないわよ。
楽しみにしててね…クロノス」
夜。
隔離室の照明が落ち、静寂が訪れる。
透は、独りで呟いた。
返事はない。
喉が締まる。
誰かを救うたび、
自分を削っている。
それでも。
好きだから。
大切だから。
理由なんて、それだけで。
そのとき。
透の胸元で、
かすかな“縫い目”が光った。
芽吹の声ではない。
でも——
確かに、誰かの想いが残っている。
透は小さく笑った。
壊れきれなかった自分。
縫い直せなかった想い。
それでも——
自分が必要なら。
どこへでも.












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。