夜明け前の中庭。
霧が薄く立ちこめ、足音さえ吸い込まれていく。
オサ
黒瀬は剣を収め、息を整えていた。
そこへ、獅堂がゆっくりと歩み寄る。
タンレン
獅堂「朝から鍛錬ですか。真面目ですね」
黒瀬「習慣だ」
獅堂は肩をすくめ、隣に立つ。
しばらく、言葉はなかった。
テンゾク
獅堂「……俺、転属願いを出そうと思ってます」
トウトツ
唐突な言葉だった。
黒瀬は視線を向ける。
黒瀬「理由は」
獅堂「このままじゃ、姫様の前で笑えなくなりそうなんで」
冗談めいた口調。でも、目は本気だった。
黒瀬「逃げるのか」
獅堂「違います」
獅堂はすぐに否定する。
獅堂「守り方を変えるだけです」
黒瀬は黙り込む。
獅堂「黒瀬は、行かないでしょう?」
獅堂は横目で見る。
黒瀬「最後まで、そばにいる」
黒瀬「それが役目だ」
獅堂「……羨ましいですね」
黒瀬「何がだ」
獅堂「何も言わずに耐えられるところ」
黒瀬は少しだけ視線を逸らした。
黒瀬「耐えているわけではない」
獅堂「じゃあ、何です?」
黒瀬「……選んだ」
その一言に、獅堂は息を呑む。
獅堂「姫様を?」
黒瀬「姫様の人生を、乱さないことを」
獅堂は静かに笑った。
獅堂「それも、愛ですね」
霧の向こうで、鐘が鳴る。
朝が来る。
二人は並んで城を見上げた。
オモ
同じ人を想い、
違う答えを選びながら。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。