第182話

リクエスト番外編 根無し草が咲く場所は ⑥
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2025/08/23 11:03 更新

花咲環奈
(‥‥実弥さんは、独り身の方なのでしょうか)
花咲環奈
(‥‥私に、記憶があれば‥‥何かわかる事もあるのかもしれませんが‥‥)


環奈は記憶喪失の自分がもどかしくて仕方なかった。



これまで知り合った者たちは皆、自分の事を知っている。



知らないのは自分だけ、という状況が何だかもどかしい。



そして実弥を知れば知るほど、もっと彼の事を知りたくなってしまう自分がいた‥‥。



入浴を終えた環奈は借りた浴衣に袖を通し、居間へとやってきた。



花咲環奈
お風呂、ありがとうございました

不死川実弥
あ?‥‥あァ‥‥


居間にいた実弥とバチッと目が合ったが、不自然にそらされてしまった。



不死川実弥
んじゃァ、俺も風呂行ってくる‥‥
不死川実弥
環奈ァ、くつろいでていいからなァ

花咲環奈
あ、はい‥‥


とは言われたものの、一人その場に残されると手持ち無沙汰ぶさたにそわそわしてしまう。



環奈はとりあえず行儀ぎょうぎよく正座をしていた。



しばらくして耳をすませると、台所の方で何やら物音が聞こえ、行ってみると玄弥が夕食の支度をしていた。



不死川玄弥
あ、これから夕飯の支度するから待っててくれよ


環奈に気付いた玄弥が微笑んでそう言った。


花咲環奈
あの、私も手伝います‥‥


環奈は迷わずそう言った。



こうして、玄弥とふたりで炊事をすることになった環奈は、談笑しながら手を動かした。


不死川玄弥
環奈さん、記憶がねぇってどんな感じなんだ?
花咲環奈
え?‥‥えぇと、そうですね‥‥
頭にきりがかかっているというか‥‥
不思議な感じです‥‥
花咲環奈
思い出せないことが、何だかもどかしくもあって‥‥
不死川玄弥
そっか‥‥でも、記憶がなくても環奈さんがこうして居てくれて‥‥ほんとに‥‥っ


急に玄弥が声を震わせて泣き始めた。


花咲環奈
え!?‥‥あ、玄弥さん大丈夫ですか?


環奈はおろおろと側にあった手ぬぐいを差し出す。


不死川玄弥
兄貴が‥‥すげェ辛そうだったから‥‥
不死川玄弥
だからっ‥‥こうしてまた会えて本当にっ‥‥
良かった‥‥俺もすげー嬉しい


玄弥の言葉に環奈の胸は締め付けられる思いがした。


未だに信じられないが、これまで出会ってきた人たちの話を聞く限り、自分は一度死んだ人間なのだと思わざるを得ない。


花咲環奈
あの、私‥‥記憶がなくても、こうして実弥さんや玄弥さんに会えて良かったです



気付けば、環奈の目にも涙が込み上げていた。


不死川実弥
何してんだァ?


風呂を終えた実弥が台所にやってきた。

花咲環奈
あ、実弥さん、今夕食の準備を‥‥
不死川実弥
ははっ、ふたりして泣きながら飯作ってんのかァ?
不死川玄弥
あ、お、俺、別に泣いてねーし!


バッと実弥から顔をそらした玄弥が、袖でゴシゴシと目を拭っていた。

不死川実弥
俺もやる


穏やかに微笑む実弥が加わり、三人で仲良く炊事を始めた。








夕食も間もなく出来上がる頃、環奈が料理にえる薬味やくみを切っていると、人差し指の指先にするどい痛みが走った。



花咲環奈
あッ‥‥!


包丁ほうちょうで指先を怪我した環奈は、血のしたたる指先を見て息を飲んだ。



花咲環奈
あ‥‥血が‥‥



絶対に犯してはいけない罪を犯してしまったような
恐怖が環奈を襲う。



呼吸がまたたく間に荒く速くなり、窒息ちっそくしそうな思いがした。




花咲環奈
(‥‥どうしましょう‥‥どうしたら‥‥)




環奈が混乱状態におちいっていた矢先、環奈の指先は実弥にパクッ‥‥と食べられていた。





花咲環奈
‥‥‥‥え?




不死川実弥
こんな傷、めときゃ治るわァ





花咲環奈
でも、あの‥‥私の血は、その‥‥
良くないものでっ‥‥




環奈は咄嗟とっさにそう思った。



血を流してはいけない、自分に流れる血にはわざわいが宿っている。



その事実だけが、強烈に環奈の意識によみがえる。



不死川実弥
そーゆうことは良く覚えてんだなァ、
血なんざ腹に入れば何でもねェよ



そう言いながら実弥が手際よく環奈の指先を小さな布で結んでくれた。



不死川実弥
ほら、これで大丈夫だろ、さっさと飯にしようぜェ


花咲環奈
え‥‥あ‥‥はい‥‥



人差し指がドクドクと脈打っている‥‥。





それは傷のせいなのか、それとも彼のぬくもりに触れたせいなのか‥‥環奈にはわからなかった。











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