夕食を終えた後も、外の雨は止む気配がなかった。
実弥の言葉にドクンッと心臓が跳ねる。
戸惑いながらも、窓の外に広がる夜の闇に環奈の背筋が寒くなってくる。
環奈は先ほど怪我をした指先をギュッと握った。
夜になり、床についた環奈は眠れなかった。
というのも、怪我をした指先の事がどうしても恐ろしくてならなかった。
このままでは、恐ろしい何かがやってくるような、
そんな気がした。
もしこの場が蝶屋敷であったなら、迷わずしのぶに添い寝を依頼していただろう。
頭まで布団をかぶっても恐怖が落ち着かず、環奈は諦めて眠らない事にした。
環奈は掛け布団をかぶりながら、部屋を出た廊下に
小さくうずくまった。
柱に寄りかかり、きょろきょろと周囲を見回して警戒する。
怪異でも妖でも、ここにいればすぐにその姿を見つけられるだろうと踏んだ。
突如、声が降ってきて、環奈は悲鳴をあげた。
そして声がした方を見ると、そこには実弥がいた。
環奈は涙目で腰を抜かして倒れ込んでしまった。
環奈は実弥に支えてもらいながら体を起こした。
そしてそのまま実弥も環奈の隣に腰かける。
そう告げた彼の温かい指先が、環奈の頬の涙をそっと拭った。
その優しさが、たまらなく嬉しくて‥‥訳もなく涙が込み上げた‥‥。
どうして彼はこんなにも優しくしてくれるのだろうか‥‥。
その優しさに、心の底から甘えたくなってしまう‥‥。
ダメだとわかっている‥‥。
記憶のない自分が、彼を望むなどおこがましい‥‥。
それでも、環奈は自分の気持ちを抑える事ができなかった。
環奈が泣きながらそう告げた時、その身がぎゅっと
抱きしめられた。
そう告げる実弥の声は震えていた。
彼の熱い唇が、環奈の唇を塞いだ。
そうして繋がり合った時、環奈の目の奥に無数の
愛おしい記憶がよみがえる。
そして、環奈は気付く。
目の前の彼が、最愛の人‥‥風柱、不死川実弥であることを‥‥。
唇が離れて、真っ先にその名がこぼれ落ちる。
信じられない奇跡に、ふたりはしばし見つめ合った。
環奈は泣きながら彼の胸にしがみついた。
環奈は声を出して泣いた。
実弥も声を出して泣いていた。
その不安をかき消すかのように、実弥が環奈を強く
強く抱きしめる。
そして、環奈もぎゅっと彼にしがみついた。
涙を流しながら、ふたりは何度も唇を重ね合う。
根無し草だった環奈は、ようやく根を下ろし大地を踏みしめる。
そして、愛おしい彼のもとで‥‥これから美しく咲き誇ってゆくことだろう。
リクエスト番外編・根無し草が咲く場所は
完
あとがき
読者の皆様こんにちは😃みゃーるさんです☺️
全七話のリクエスト番外編いかがでしたか?
愛する人のキスで記憶が目覚める😉わりと良くある
ハッピーエンドですが、短編小説ですので王道の展開も悪くはないかなと思いました☺️
たとえ記憶を失っても惹かれ合うのは、ふたりの絆を感じますね☺️
私は基本的に長編小説ばかり書いていますが、今回
リクエストをいただいて短編を書いてみましたがなかなか楽しかったですね😊
リクエスト誠にありがとうございました🙇♀️✨
今回のリクエスト以外にも、『それぞれの柱と付き合ったその後のお話が見たい』というリクエストもいただいております☺️
要は、命の風を吹かせての最終章のカップルエンディングのその後という事かなぁ🤔と思いました😊
となると、柱の他に玄弥もいますね🤔ふむふむ‥‥。
現在メインで執筆連載しているお話の兼ね合いもありますので、筆が乗ったお話から書いていけたらなと思っております☺️
投稿したらまた読みにきていただけると嬉しいです☺️
今回は短編小説だったので、視点人物のsideチェンジは行いませんでした😉
けれど、少しだけコソコソ噂話で実弥sideをお見せしたいと思います😉
命風コソコソ噂話 ①
環奈が蝶屋敷に身を寄せる事が決まった後、実弥はとにかく環奈に会いたくて、体を傷つけてまで理由を作って環奈に会いに行っていました。
実弥は生きている環奈に会える事が嬉しくて‥‥体に傷をつける事を少しも辛いと思いませんでした。
けれど、環奈に怪我をしないように言われ、治療という理由がなくても会う約束を交わしてからは自傷行為をやめました。
命風コソコソ噂話 ②
記憶を失った環奈を初めて風柱邸に招いた日、風呂上がりの環奈を見た実弥は、想像以上に女の子らしい環奈の姿にかなり動揺しました。
彼女を屋敷に招いた事を、実弥は浅はかだったっと少し後悔しました。
風呂に向かう時に、玄弥にしっかり牽制された実弥でしたが、その時の顔は耳まで真っ赤だったそうな‥‥。
命風コソコソ噂話 ③
記憶を失っても環奈が相変わらず環奈だったので、
実弥は内心、可愛くて仕方なかったようです。
そっと様子をうかがうと、そこにいたのは布団をかぶって丸まっている環奈の姿‥‥。
実弥は内心では終始、環奈にデレデレだったようです。
完
ご拝読誠にありがとうございました!😊🙇♀️













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!