今日も、俺は喫茶店で働く。
何の変哲もない、平凡な暮らしを送るために。
僕は羽白律希。
第二の性という生まれながらの格付けがある中で生きている。
この世の人間は3つのタイプに分けられる。
"dom""sub""normal"
8割の人間はnormal。
1割がsub、もう1割がdom。
僕はnormal…と偽るsub。
隠している理由なんていくつもある。
その中でも大きい要因になっているのは……
subはdomの支配下に置かれてしまうということ。
僕はそれが嫌で、隠すようになった。
本来、domとsubはplayを行って、ストレスの
解消を行わなければならない。
playをしたくない僕は、抑制剤で無理やり
欲求を抑える日々。
薬によってそれを抑えていると、
不眠、頭痛、慢性疲労など、副作用がでてくる。
それを避けるために、人々はplayをする相手__
いわゆるpartnerを作る。
まあ、partnerなんて、playをしたくない僕にとって
無縁の話なのだけれど。
この人は、よく来てくれる男性。
いつも綺麗で高級そうなスーツを身に纏っている。
イケメンで、スタイル良くて、仕事もできて……
って感じだから、多分domだろう。
第二の性は、言わなくても分かる場合がある。
domは頭が良くて、会社の採用もされやすいから、
お金持ちそう、っていうので分かるし、
normalは普遍的な印象を受けるからすぐに分かる。
subはというと……
僕みたいに、抑制剤でnormalのふりをしていれば
normalのように見えるし、
domとpartnerになっていると、その証にcolorという
首輪をつけるから分かる。
partnerが居なければ基本抑制剤を飲むので、
partnerも居なくて、抑制剤も飲まなくて、って人は
見かけたことがない。
喫茶店で働いているけれど、僕はコーヒーが飲めない。
だから、ブラックコーヒーなんて苦いやつ、
よく飲めるなぁ、なんて感心しながら用意する。
こく、こく、と、嚥下する度に喉仏が上下する。
やはり、この人は飲んでいる姿も様になる。
よく来ていて、見慣れていても、
この美人な姿には思わず見蕩れてしまう。
そうしていると、他のお客さんが入店してくるから、
また接客を始める。
ここに来る多くの人の為に飲み物と料理を用意して、
仕事が終われば帰宅して、
シャワーを浴びて、抑制剤を飲んで、就寝する。
これが、僕の日常。
朝の4時半。
段々と冬に近づくこの頃の空気は、
澄んでいて心地が良い。
この人が店長の霧島伊吹。
この人にだけは、もしもの為に嘘をついている事を言っている。
採用されない覚悟で言ったものの、
全く嫌な顔をせず、「そうなんだ、言ってくれてありがとう」と言われた時は驚いた。
店長はdomだけど、「 partnerがいるから安心して」とも言ってくれた。
ここ以上に第二の性で差別しない職場は無いだろうと、僕は今もここで働いている。
月に一度の検診。
domとsubは特別扱いで定期検診が義務付けられている。
今日はいつものあの人来なかったな…なんて思いながら、早めの退勤をして、病院に向かった。
平日の昼間。
こんな時間に歩いている人なんてほとんどいない。
これじゃあ社不みたいじゃん…早く帰ろ…
なんて思いながら歩いていると、
突然、ドンッと人にぶつかる。
自分よりも10㎝近く背が高くて、顔を上げないと相手の顔が見えなかった。
顔を上げると、見慣れた顔が。
今のは失礼なことを言ったつもりでは無い。
僕に抱きついて来たから、思わず口にしてしまった。
体温が高いように感じるので,おそらく熱だろう。
抱きついてきたのが変な奴じゃなくてよかった…と少し安心して、
この人を肩を組んで病院まで連れて行った。
身長差に少しむかついたけど、気づかなかったことにした。
羽白 律希 (21)

一之瀬 透 (23)
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!