第188話

もう一つの結末 百十九
46
2026/06/02 21:00 更新
朝から雨が降っていた
屋根を叩く雨音が静かに響く
 
あなた
…よく降るね
あなたが窓の外を見ながら呟いた
錆兎
嗚呼
錆兎も外へ目を向ける
空は厚い雲に覆われていた
 
今日は一日中こんな天気だろう
 
昼過ぎ
雨はまだ止まない
あなたは湯を沸かしながら居間へ声を掛ける
あなた
錆兎〜、お茶いる?
返事がこない
あなた
あなたは振り返る
数秒後
錆兎
……嗚呼
ようやく返事が返ってきた
あなた
あなたは小さく首を傾げた
あなた
(体調が悪いのかな?…返事が遅かったけど)
それだけだった
長い付き合いの二人
何となく違和感を覚える
 
お茶を持って居間へ戻る
あなた
はい、どうぞ
錆兎
ありがとう
錆兎は湯呑を受け取った
変わった様子はない
けれどあなたは向かいへ腰を下ろした
あなた
…錆兎
錆兎
?何だ
あなた
目、痛むの?
錆兎が一瞬だけ黙る
錆兎
あなた
あなたは確信した
錆兎
少しな
短い返事
あなた
朝から?
錆兎
嗚呼
あなた
何で言わなかったの
錆兎
言うほどではない
いかにも錆兎らしい
あなたは小さくため息を吐いた
あなた
はぁ…鎮痛薬いる?
錆兎
いらん
即答
あなた
ほんとに?
錆兎
嗚呼
あなた
痛いんでしょ?
錆兎
大したことない
あなたはじっと見つめる
その視線から逃げるように、錆兎は湯呑へ口を付けた
錆兎
……まだ平気だ
あなたは困ったように笑う
あなた
そうやって言う時は大体平気じゃないんだよ
錆兎
そんなことはない
あなた
あるよ
即答だった
錆兎は何も言い返さない
あなたは湯呑を両手で包む
あなた
私も言ってたから
錆兎
あなた
足の調子が悪い日も、右手が思うように動かなかった時も
あなた
大丈夫って
あなた
(まぁ…無理矢理薬飲まされた時もあったけど)
錆兎は黙ったまま聞いていた
あなた
だから分かる
あなたの声は穏やかだった
あなた
我慢できるのと平気なのは違うよ
雨音だけが響く
しばらくして
錆兎
……そうかもしれないな
珍しく認めた
あなたは少しだけ目を丸くした
あなた
…今日は素直だね
錆兎
痛いからな
さらりと言われる
あなた
フフ
思わず吹き出した
あなた
やっぱり結構痛いんだね笑笑
錆兎
少しだ
あなた
錆兎は否定しなかった
夕方
 
雨は相変わらず降り続いていた
あなたは縫い物をしていた
ふと顔を上げる
錆兎
錆兎は本を読んでいた
……いや
読んでいるように見えただけだった
あなた
同じ頁をずっと開いている
あなたはそっと立ち上がった
あなた
(あの方法でいこう)
あなた
錆兎
錆兎が振り向く
錆兎
何だ?
あなた
こっち来て
あなたは座布団の上へ座り直した
そして
ぽん、と自分の膝を叩く
あなた
横になって
錆兎
必要ない
即答だった
あなた
ある
錆兎
ない
あなた
ある!
錆兎
あなた
あなた
少し休んで
あなたは柔らかく笑う
あなた
お願い
錆兎
錆兎が黙る
しばらくして
錆兎
……少しだけだ
観念したような声だった
あなた
ふふ…
あなたが微笑む
あなた
うん
錆兎は静かに横になる
最初は少し落ち着かなそうだった
慣れていないからだ
あなた
(確か前にしたのは…私が上弦の壱と接触する前だったかな)
あなたは何も言わず、そっと髪を撫でる
さらり
指が髪を梳く
 
雨音が部屋に響く
あなた
楽?
錆兎は目を閉じたまま答えた
錆兎
…嗚呼
短い返事
けれど本心だった
あなたは少しだけ安心する
あなた
覚えてる?
錆兎
あなた
入院中のこと
錆兎が薄く目を開ける
あなた
杖なしで歩けなかった時に、よく支えてくれたよね
錆兎
当然だ
あなた
うん
あなたは優しく笑った
あなた
だから今日は私の番
雨音が続く
錆兎はしばらく何も言わなかった
やがて
錆兎
……ありがとう
ぽつりと零れた声
あなた
あなたの手が止まる
あなた
(珍しい…)
本当に珍しい
あなたは少し驚いて、それから嬉しそうに笑った
あなた
どういたしまして
錆兎は再び目を閉じる
外では、まだ雨が降り続いている
その日は不思議と嫌な雨には思えなかった
今回は一話だけ
ごめんなさい🙇‍♀️

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