第186話

もう一つの結末 百十七
56
2026/06/01 21:00 更新
 
 
錆兎
あなた、まだか?
障子の向こうから錆兎の声が聞こえる
あなた
もう少し!
そう返しながら、あなたは鏡の前で最後の確認をした
淡い瑠璃色のワンピース
祝言祝いで貰った洋服だ
髪を整え、いつもの瑠璃色の簪を挿す
あなた
よし
頷いて障子を開けた
あなた
お待たせ
錆兎が振り返る
錆兎
そして固まった
あなた
あなたは眉をひそめる
あなた
何その顔
錆兎
……いや
あなた
似合わない?
錆兎
違う
返事が早い
あなたは少し安心した
あなた
じゃあ何?
錆兎は一度視線を逸らした
錆兎
似合ってる
あなた
本当?
錆兎
嗚呼
あなたが嬉しそうに笑う
あなた
ありがとうニコニコ
錆兎
……
あなた
ん?
錆兎
いや
錆兎は咳払いをした
錆兎
行くぞ
あなた
誤魔化した?
錆兎
誤魔化してない
祝言を挙げた後の初のお出かけの始まり
街へ着くと、あなたはきょろきょろと辺りを見回した
あなた
やっぱり洋服だと歩きやすいね
錆兎
そうか
あなた
でも着物の方が落ち着くかも
錆兎
お前らしいな
あなた
何それ笑笑
あなたが笑う
錆兎も少しだけ口元を緩めた
 
しばらく歩いていると、小物屋が目に入った
あなた
ちょっと見てくるね
錆兎
分かった
錆兎は近くの店へ用事があり、一旦別れる
あなたは店先の商品を眺めていた
すると
モブ
お姉さん
声を掛けられる
振り返ると見知らぬ男だった
あなた
はい?
モブ
綺麗な服だね
あなた
あ、ありがとうございます
モブ
一人?
あなた
いえ
あなたは首を振る
だが男は気にしない
モブ
少しくらい話さない?
あなた
すみません
モブ
そんな警戒しなくても
あなた
待ち合わせしているので
モブ
すぐ終わるって
あなた
(…しつこい)
なかなか引いてくれない
あなたは困ったように笑った
あなた
本当に大丈夫です
モブ
名前だけでも
あなた
いえ
モブ
じゃあーーー
あなたは小さくため息を吐いた
あなた
“夫”と来ていますので
男が瞬く
モブ
旦那さん?
あなた
はい
モブ
でも今いないじゃないか
あなた
(この人これでも諦めないの?…)
その時だった
 
 
錆兎
あなた
聞き慣れた声
あなた
あなたが振り返る
あなた
あ、錆兎
ぱっと表情が明るくなる
錆兎はあなたの隣へ来た
錆兎
待たせたか?
あなた
ううん
そして男へ視線を向ける
錆兎
…知り合いか?
あなた
違うよ
あなたが即答する
錆兎
そうか
錆兎はそれ以上何も言わない
ただ男を見ていた
だが男は何故か居心地が悪そうだった
モブ
えっと……
男は苦笑する
モブ
失礼しました〜!!
そのまま足早に去っていった
あなた
はぁ…
あなた
やっと行った…
錆兎
大丈夫か?
あなた
うん、ありがとう
歩き出そうとした時
あなたが荷物へ手を伸ばした
あなた
それ持つよ
錆兎
いや
錆兎が避ける
あなた
重くないよ?
錆兎
知ってる
あなた
じゃあ何で?
錆兎
持つ必要がない
あなたが少し目を丸くした
あなた
過保護…
錆兎
そうか?
あなた
そうだよ
あなたが呆れたように笑う
錆兎はあなたの背中を軽く手を当てた
まるで
 
 
        『俺の女だ』
とでも言っているようだった
しばらく歩いていると
錆兎が不意に口を開いた
錆兎
…夫か
あなたの足が止まる
あなた
っ!?
錆兎を見る
錆兎は真面目な顔だった
あなた
っ聞いてたの!?
錆兎
聞こえた
あなた
聞こえてたんだ……
あなたの顔がじわじわ赤くなる
錆兎は少しだけ笑った
錆兎
間違ってないだろう笑笑
あなた
そうだけど!
錆兎
そうだろう
あなた
そういう問題じゃないの!
あなたは顔を押さえる
錆兎の方は妙に機嫌が良かった
あなた
錆兎
錆兎
なんだ
あなた
笑ってる
錆兎
笑ってない
あなた
嘘だ
錆兎
嘘じゃない
あなた
(絶対嘘だ)
あなたが睨む
すると錆兎は肩をすくめた
錆兎
ほら
あなた
錆兎
行くぞ
そう言って自然にあなたの手を取る
あなた
あなたは目を瞬いた
あなた
……錆兎?
錆兎
迷子になる
あなた
ならないよ!
錆兎
そうか笑笑
そう言いながら離す気はないらしい
あなたは頬を赤くしながらも、小さく笑った
春の風が吹く
二人は並んで歩きながら、賑やかな街の中へ消えていった

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