第18話

第三章 もう一人の、彼-7
999
2018/11/21 04:36
長谷部鈴
長谷部鈴
折坂くんとあんまり話したことなかったから断定は出来ないけど……
折坂孝平
折坂孝平
……うん
長谷部鈴
長谷部鈴
でも、ちょっと……印象は違うなって感じは、した
折坂くんは私を見つめながら、緩く目を見張る。
折坂孝平
折坂孝平
違うって……どんな風に?
長谷部鈴
長谷部鈴
どんなって……。ただ漠然とそう感じただけで、詳しく言えと言われてもどう答えていいかわかんないんだけど……
ただちょっと物腰が柔らかいなぁ…って感じただけで、素の折坂くんがそうじゃないと言い切れるほど、私は彼のこと知らないし。
そもそもそんなこと言ったら気を悪くするかもしれない、と思って、私はあえてそのことは黙っておくことにした。
すると折坂くんはぎゅっと唇を嚙み締めながら、スイと私から目を逸らした。
瞳が激しく左右に揺れ、彼の動揺が伝わってくる。
長谷部鈴
長谷部鈴
あ、あの……折坂く……
折坂孝平
折坂孝平
────もしかしたら、俺……。何かに取り憑かれてんのかな……
長谷部鈴
長谷部鈴
…………
不安げに呟いた折坂くんの言葉を耳にして、私は思わずマジマジと彼の顔に見入ってしまった。
……そりゃ確かに別人みたい、とは思ったけど。
だからって……何かに取り憑かれてる、なんて。
いくらなんでも……ねぇ。
長谷部鈴
長谷部鈴
何かに取り憑かれてるって、例えば幽霊とか?……冗談だよね?
折坂孝平
折坂孝平
冗談なんかじゃねーよ!
笑いを含んだ私の口調が気に入らなかったのか、さっきまで意気消沈していた折坂くんが嚙み付くようにキッと顔を上げた。
その目の鋭さに、私はビクッと体を強張らせる。
折坂くんはどこか悔しそうに顔を歪めた。
折坂孝平
折坂孝平
冗談で……こんなこと言わねーよ……
長谷部鈴
長谷部鈴
…………
折坂孝平
折坂孝平
心当たりだって、あるんだ
長谷部鈴
長谷部鈴
え?
驚いて聞き返すと同時に、折坂くんは表情を隠すように深く俯いてしまった。
真横に引き結ばれた唇だけが見えて、私は自分の対応がまずかったことを何となく感じ取る。

……とは言うものの。

私、霊感なんて全くないし。
いきなり幽霊に取り憑かれてるかも、なんて言われても……にわかには信じがたいというか。
でも、心当たりがあるって、どういうことだろう。
取り憑かれた幽霊の正体に、心当たりがある…って、こと?
折坂孝平
折坂孝平
………………
あまりにも長い間折坂くんが俯いているので、私は妙にソワソワしてしまった。

──もしかして。

本気で折坂くんのこと、怒らせてしまったのかな……。
どうしよう。
謝った方がいいんだろうか……。
長谷部鈴
長谷部鈴
あ、あのぅ……。折坂くん……?
おそるおそる声をかけたその瞬間。
ふわ…っと、空気が震えた気がした。

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