折坂くんは私を見つめながら、緩く目を見張る。
ただちょっと物腰が柔らかいなぁ…って感じただけで、素の折坂くんがそうじゃないと言い切れるほど、私は彼のこと知らないし。
そもそもそんなこと言ったら気を悪くするかもしれない、と思って、私はあえてそのことは黙っておくことにした。
すると折坂くんはぎゅっと唇を嚙み締めながら、スイと私から目を逸らした。
瞳が激しく左右に揺れ、彼の動揺が伝わってくる。
不安げに呟いた折坂くんの言葉を耳にして、私は思わずマジマジと彼の顔に見入ってしまった。
……そりゃ確かに別人みたい、とは思ったけど。
だからって……何かに取り憑かれてる、なんて。
いくらなんでも……ねぇ。
笑いを含んだ私の口調が気に入らなかったのか、さっきまで意気消沈していた折坂くんが嚙み付くようにキッと顔を上げた。
その目の鋭さに、私はビクッと体を強張らせる。
折坂くんはどこか悔しそうに顔を歪めた。
驚いて聞き返すと同時に、折坂くんは表情を隠すように深く俯いてしまった。
真横に引き結ばれた唇だけが見えて、私は自分の対応がまずかったことを何となく感じ取る。
……とは言うものの。
私、霊感なんて全くないし。
いきなり幽霊に取り憑かれてるかも、なんて言われても……にわかには信じがたいというか。
でも、心当たりがあるって、どういうことだろう。
取り憑かれた幽霊の正体に、心当たりがある…って、こと?
あまりにも長い間折坂くんが俯いているので、私は妙にソワソワしてしまった。
──もしかして。
本気で折坂くんのこと、怒らせてしまったのかな……。
どうしよう。
謝った方がいいんだろうか……。
おそるおそる声をかけたその瞬間。
ふわ…っと、空気が震えた気がした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!