時間が経つのは早い。気づくと2月も終盤で受験の合格発表を迎えていた。出遅れた分、3年前に失敗した分、そのすべてを巻き返すべく、必死に勉強した。絶対に合格すると、3年前の二の舞を踏まないようにと、覚悟を決めたから。
だから大丈夫だと信じながら、私と母は電車に揺られて桜春高校に向かっていた。揺れが私の心を時折不安にさせる。電車を降りてからも、現れた不安はまだちらちらと顔を出していた。
母にそう言われたときに目の前にあったのは、高校だった。同じ景色を先日、受験の時にみたばかり。
門をくぐると、その記憶が呼び起された。母に見送られながら、この門をくぐった。不安と緊張の中に頑張ってきたという自信を持った背中を手を振る母に向けた、私の足取り。教室に入って、緊迫した空気を吸ったときの背筋の伸び。問題を開いたときの手ごたえ。それらが一気にやってきて、不安は消えていった。
今度こそ。
時計にちらりと目をやった母は、合格発表がされる掲示板の前の人だかりに入っていった。私もそのあとを追って、掲示板が見える位置まで来た。自分の腕についている時計の秒針は、かちかちと進んでいった。
あと3分、あと2分、あと1分…、そして、9時ちょうど。
先生たちが、大きな紙を持ちだしてきて、掲示板に貼りつけた。その瞬間、中学受験の時の屈辱が脳裏をよぎった。途端に怖くなり、私はぎゅっと目をつぶった。
この掲示を見ていいのか、もし、万が一のことがあったら、と思考は悪い方向へ進んでいった。さっきまであった自信はどこかへ消えてしまった。
母の声を聞いてから、ようやく私は目を開けた。そこには私の受験番号がかかれていた。
家に帰ってからは、ネットで合格発表を見ていた父が出迎えてくれた。わざわざ、第一志望の合格発表だからといって、仕事を休んでくれたのだった。
それから父はご機嫌で祖父母に連絡して喜びを分かち合ったり、焼肉店の予約を取ったりしていた。正直父が一番喜んでいるように見えた。
もちろん私もうれしかった。夢がかなったから。屈辱が晴れたから。母と一緒に塾に電話して、合格を連絡した。先生も喜んでくれた。私はこれから始まる新たな生活に想いを馳せていた。一家全員、その喜びに浮足立っていた。
しかし、家に合格通知書が届くと、そのふわふわした空気感は消えた。合格通知書の中に、別の学校の、入学許可証が入っていたのだ。
そのとき、父が封筒を持ち上げた。その瞬間、その中から小さな封筒が顔をだした。手紙の大きさだ。
中身にあったのは、2枚の紙だった。1枚目はいっぱいに文字が印刷された紙だった。
『あなたの力で、今から、この日本に貢献しませんか』
私たちは言葉が出なかった。何が起きているのか、まったくつかめなかったからである。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!