第16話

score.xx【はじまりのおと①】
462
2023/06/03 07:00
 最初は、ただすごいと思った。
 
 新しいCDの楽曲を選んでいく中で挙がってきた、新規のアーティスト。自分で曲は出していないらしく数曲分の音源と楽譜だけの提供で、顔も声も年齢も、性別すらも知らない。
 特段期待していたわけでもなく、他の候補曲と同じように楽譜を片手にヘッドフォンをはめて渡された音源を流す。

 一瞬で鳥肌が立った。震えるみたいな、はじめての感覚。

 ベースとドラムの精密に組み立てられたリズム、それを掻き回しながら複雑にしていくギターの音。その間を、意志があるみたいにまっすぐと通ったメロディーラインが抜けていって、後にはじんわりとした余韻だけが残る。
 かなり難易度の高い技巧曲のくせに思わず歌いたくなるようなサビが繰り返し折り込まれ、リリックが物語のように世界に引き込んでいく。音に、歌の世界に、呑み込まれる。そんな曲だった。

 楽曲を決めるミーティングもまだなのに俺は次の曲はこの人しかない気がしていて、繰り返し聞き込んで歌を当てていた。


******


 数日後、レーベルの担当者と俺ら6人で新譜のミーティングが行われた(レーベルの担当者は早々にデスクに呼ばれてしまい、俺らが意見をまとめるまで一旦離席することになったが)。いつも通り6人それぞれで楽曲をチェックしてきたところから、コンセプトやらタイアップと合わせて表題曲とカップリング曲をどうするかを話し合っていくはずだった。

 「あのさ、オレ、今回実はもう推したい曲決まってるんだよね。」

 ジェシーが開口一番切り出した。

 「俺も俺も!」

 「俺も、実はめっちゃ聞きまくってる曲ある。」

 慎太郎と樹が重ねるように挙手をして、俺を含む残り3人に視線を寄越す。

 「俺もいいなーと思った曲あったから、北斗と大我がよければもう皆で先にそれ出しちまうか?」

 「いいよ、俺はそれで。俺もなんとなく決めて来てるし。」

 髙地かいつものようにまとめてくれて、北斗も静かに同意した。俺もコクンと頷いて、とりあえず順番に自分の推したい楽曲を流そうということになった。

 結論からいうと、3曲に割れた。
 慎太郎と髙地がピアノとギターベースのチル系楽曲、ジェシーと樹が重めのベースがズンと響くちょっとハードめなロックチューン、北斗と俺がボカロライクなサブカル系のピアノロック。

 「「「「「「あー。」」」」」」

 6人できれいにハモった。理由はひとつ。


 3曲とも、あなたの曲だった。

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