宙為と俺との間に入ったクロは俺の手を引いてどこかに連れていった。
俺は何も言わなかった。だってあのまま誰も来なければ俺はきっと……いやこんな根暗な話はよそう。
不満を鳴らしつつ、新人公演の台本、不眠王を軽く読んだ。
そう言って俺は台本を丸めてクロの作業部屋を後にした。
ミツは俺の手を見た。俺の手にあるのは右手には楽譜、左手にはクロから貰った不眠王の台本だ。
裏方も裏方で色々面倒なんだ。ミツにそういうとそうなんですねと行った。反応薄っ!
渋々ミツは楽譜を見て歌い始める。俺はミツの歌声が好きだ。いつまでも聞いていたい。
ミツの注意すべきところを指摘し、気づけば太陽は西に傾いていた。
ミツの華奢な背中を見送り、俺はピアノの椅子に腰を掛けて、キーに触れた。人差し指でポンと押せば反応して音が出る。俺は両手の指を置き、『魔王』を弾き始めた。
演奏が終わる頃には俺の瞳から涙が溢れ、ピアノを、制服を、顔を濡らしていた。
自室に戻って台本を読む。演技はまだまだ未熟だ。
つい熱中し過ぎて廊下にいるクロに気づいていなかった
俺は戸惑った
全く。根地黒門という天才には毎回振り回されるな
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。