あまりの衝撃にその場に立ち尽くす。
その様子に、依兎は焦ったようだった。

説明されても、涼音は放心状態だった。
自分の主張を否定されている様な気がして。

それを聞きながら涼音はハッとした。
確かに、涼太が壊していた所は見ていない。

涼音の頭の中で情報がグルグルと回っている。

自分は涼太が壊していた所は見ていない。そして、涼太はずっと謝っていないし、発言もしていない。

──もしそれが、「自分が壊したことは違う」のに、場の空気的に言えなかったのだとしたら？

2人が話している中、夜流の声が聞こえた。

雨が降りそうな曇りの中、涼音は道を走り抜ける。
右手にはクシャッとしている1000円札が2枚。
ただ、そのお金を使う可能性は低い。


道の奥に自分の家が見えた。
ドアを勢いよく開けると、泣きじゃくっている涼太の姿があった。

涼太をあやしながら、涼音は問いかける。
もやもやを全て解消するために。

沈黙が流れる。
涼太は涙を拭きながら顔を上げ、言葉を発した。

───店員さんの言う通りだ。

涼太はおもちゃを壊していなかった。
むしろ、わたしが変なところに置いていたせいで落ちそうだったおもちゃを守ろうとしてくれた。

………なのに、何も知らないわたしがあれこれ怒っちゃって……

数分間、抱き合って2人は号泣していた。

チリンチリーン……

依兎は頬杖をつき、見上げる。

お金はちゃんと持っている。………くしゃくしゃの。

手のひらを出されたので、くしゃくしゃになったお札を置く。

強く握りしめすぎたお札に、店員さんは驚いている様だった。

涼太のおもちゃを手渡され、涼音は席を立ち、店を出た。

本日3度目の全力疾走。
ただ、止まらない。疲れたとしても。
大好きな弟が待っている家へ帰るために。

〜悩める少女編、終〜