第12話

3-2 ボカロPの決意
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2023/04/02 00:59
ネオ
………………もうダメだ。


ボソリと呟き、歌詞をメモしていたファイルを右クリックする。
そのままカーソルを『削除』の前に。

───このまま左クリックをすれば、自分は解放される……のかもしれない。

ネオ
……………


こんなに準備万端でも尚悩む自分に嫌気がさす。








数分後、カウントダウンをしてから消そうと心の中でカウントダウンを始めた。

ネオ
(5、4、3……)


……これでもう終わり。
お別れの動画も作った。

ネオ
(2、1……)
ネオ
( 0 )


カチッ。

クリックの音が響き、1つのファイルが消える。

思い立ったら即行動を意識し、バーチャルシンガーのCDを箱の中にしまい、誰か中古で買い取ってくれないかと紙袋に入れ家を飛び出した。











ネオ
(勢いで家を出てきてしまったけども………)
ネオ
(よく考えたら今直ぐに売れる場所なんてないな。)


ズカズカと歩く行動とは裏腹に、心の中で自分に反省する。
近所でバーチャルシンガーOKで今から参戦OK。
こんな都合のいいフリーマーケットはやっていないだろうか。

ネオ
(……………無さそうだな。)


一通り調べた後のスマホを見つめ、立ち尽くす。
やっぱりそんな都合のいいフリーマーケットはやっていなかったようだ。

ネオ
(…………帰ろう。)


今日は諦めて帰ろうと顔を上げたその時。
視界にとある店が入った。

ネオ
(────『なんでも買い取り屋』?)


こんな店がこんな所にあるということも驚きだが、こんなにピッタリな店を見つけられる自分の強運さにも驚いた。
特に売るものも指定されてはいなさそうなので、店に入ってみることにした。

チリンチリーン……

ネオ
………こんにちは〜
万事屋 依兎よろずや いと
…!いらっしゃいませ!
何処屋 夜流いずこや よる
いらっしゃいませ〜
万事屋 依兎よろずや いと
ささ、こちらに座って!


出迎えてくれた店員は2人。
この店は案外小さいのだろうか。
言われた通り席に腰掛けると、茶髪の女性店員が口を開いた。

万事屋 依兎よろずや いと
……それで、売るものはどちらに?


手にしていた紙袋の中からバーチャルシンガーを取り出し、机の上に置く。
店員が一瞬目を見開いた………気がした。

ネオ
これです。
万事屋 依兎よろずや いと
これは……鳴音オトですかね?


鳴音オトという単語に、少し心臓がドクンとする。
大丈夫。もう自分は使わないんだ。
必死に自分に言い聞かせ、会話を続ける。

ネオ
そうです。
ネオ
とある曲に憧れて買ったはいいものの………自分には才能がないと気づいて。


これは本当。
凄く昔……作曲を始める前に、憧れた曲があった。

万事屋 依兎よろずや いと
そうなんですね……
万事屋 依兎よろずや いと
やっぱり、作曲は大変なんでしょうか。


女性店員が言うと、今まで何も言葉を発していなかった男性店員が口を開いた。

何処屋 夜流いずこや よる
大変なんじゃない?
何処屋 夜流いずこや よる
じゃあ依兎、今からこれを使っていいからすっごくいい曲を作って!…って言われたらどうする?
万事屋 依兎よろずや いと
…………うぐ。
万事屋 依兎よろずや いと
やっぱりいい曲はそんな簡単に出来ないんですね………











万事屋 依兎よろずや いと
ネオさんも、そんな気持ちなんでしょうか。
ネオ
……!?

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