あなたの下の名前side
4歳の頃、お母さんが死んだ。
と、お父さんに知らされた。
母は優しい人だった。私を愛してくれた。温かい人。
父も、そんな母を愛していたし、私のことも愛してくれていた。
偶にしか会わないので、顔は覚えていないが。
母は事故死だったらしい。詳しくは教えてもらえなかった。
私は孤児院に入った。
父は仕事で海外に行くらしく、連れて行くこともできないと聞いた。親戚もいなかった。
年上の子に意地悪もたくさんされたけど、仲良くしてくれた子もいた。
顔も名前も、声も、もう思い出せない。
でも、母のように、優しくて、温かい人だったことだけは覚えている。
今思えば、その子に母を重ねていた部分もあったのだろう。
10歳になった頃、その子は突然いなくなった。
誰に聞いても答えてもらえなくて、院長に直接聞きに行った。
とある男に引き取られたらしい。
引き取った男の名は…
その後まもなく、私は森さんに引き取られた。
最初こそ怖かったものの、少しずつ、ポートマフィアのみんなとも仲良くなった。
13歳、私は孤児院で仲良くしてくれたあの子に会いたくて、森さんにその子のことを調べてもらった。
もういない。
その言葉を聞いた瞬間、私は崩れ落ちて、声を上げて泣いた。
そんな私を、森さんと姐さんが、辛そうな顔をしながら必死に慰めてくれたのを覚えている。
暫く経って、私はある男の名前を思い出した。
その人なら、あの子の名前を、生前を、眠る場所を知っているはずだ。
そう思って、櫻木崇人という男を必死に探した。
目元にほくろのある高身長の男だった。
孤児院で仲良くしていて、その子の墓参りに行きたいのだと伝えると、少し驚いていたけど、笑いながら、案内してくれた。
それまでの道で、あの子のことをたくさん教えてもらった。
名前と、思い出、引き取った理由も、全部。
彼女は幸せだったということがわかって、少し安心した。
十分ほどだろうか。彼女の墓に着いた。
とても綺麗に手入れされていて、彼女がしっかり愛されていることが伝わる。
長い間ここにいると、また泣いてしまいそうで、彼女への挨拶は手短に済ませた。
後ろで見守ってくれていた櫻木さんが泣きそうな顔をしていたのは、見ないふりをしておいた。
それから、偶に櫻木さんと、彼女の墓参りに行くようになった。
ある時、彼女の墓の前で、櫻木さんが
刺された。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。