幻聴だろうか。顔をあげると暁くんがいるようにみえる。幻覚か。さすがに幻聴や幻覚まできてしまうとそうとう暁くんに会えなかったことがショックだったのか。
暁くんは私の側まで来て背中をさすってくれる。
やばい、触られている感覚まである。相当な重症らしい。
幻聴でも幻覚でもないとそこで初めて気付いた。
暁くんはいつもの笑顔で答えてくれたが私はまだ状況を掴めていない。さっきまで幻聴や幻覚だと思っていた相手が、会いたかった相手が、今目の前にいるから。
カウンターの方でしゃがんでいたら私がいるドアの方からその人を見ることは出来ない。それが分からずに私は1人泣いてしまったのだ。
クスクス笑いながら私に問いかける。
そこまで話してから、私は近くのパソコンに反射した自分の顔を見た。ブサイクすぎる。私はそこまでおしゃれやメイクに興味があるわけではないが、それでもブサイクすぎた。また下を向いて顔を隠す。
私はタオルを出そうと鞄の中に手を入れた。
暁くんにあげるために持ってきたガトーショコラが手に当たる。
暁くんは不思議そうな顔をしている。2人きりではある。しかし、こんなおかしな状況で渡してもいいものか。渡そうか、渡すまいか迷っていると…
差し出してくれたのはきっと誰かから貰ったであろうチョコレートだった。
頭を掻きながら暁くんは私に言った。そして驚く。まさか暁くんが甘いものが苦手な人だったとは。
出来れば弟の話はしたくなかったけど意外な共通点が見つかり話す。
どういうこと?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!