歩美が指差す方を見ると、
確かにさっき少女を迎えに来た母親がいた。
しかし、 どこか様子がおかしい。
そして俺と目が会った瞬間、
一目散にこちらへと走ってきた。
人混みをかき分け、 半狂乱で駆け寄ってくる。
肩を激しく震わせ、 縋るような目で
周囲を見回すその悲痛な叫びは、
華やぐ賑わいの中へ虚しく吸い込まれていく。
歩美たちの顔から、 平穏の色が失われる。
俺は即座に周囲へ鋭い視線を走らせた。
時間にして一分も経っていない。
迷子なら、 まだ近くにいるはずだ。
___ "迷子" だったら。
俺の言葉に弾かれたように、
母親は震える指先で110番を押す。
その不穏な雰囲気に、
周囲の人々も次第に異変を察し始めた。
射的の様子を伺っていた親子が顔を上げる。
少し離れた木陰で、 一人の若い女性が
スマホをしまって俺らの方へ目を向けた。
綿飴を手にした男子の集団も歩みを止める。
博士が子供たちを抱え込むように引き寄せる横で、
灰原は冷徹な眼光で母親の挙動を観察していた。
俺はポケットからスマホを取り出す。
いつも通りの小さな嘘だ。
灰原の視線が 「口実ね」 と無言で告げていた。
人混みの波をかき分け、 走り出す。
自分から自分へ連絡するつもりなど毛頭ない。
確かめたいのは、 少女が消えた足跡だ。
少女が母親と合流した場所。
そのまま歩き始めた方向。
そして途切れた位置。
距離にしてわずか数十メートル。
石段へ続く参道、 左右にひしめく屋台。
逃げ道になりそうな脇道は皆無に等しい。
もし迷子なら、 誰かの視界に入り込むはずだ。
もし誘拐なら、 一瞬の抵抗や不審な影を
目撃した者がいるはずだ。
しかし現場に着いた瞬間、
その希望は虚しく消え去った。
___何も無い。
悲鳴も、 落とし物も、 争った痕跡すら、
本当に一つも残っていない。
まるで、 人混みのキャンバスから
少女という絵の具だけが削ぎ落とされたかのように。
胸の奥で、 冷ややかな違和感が輪郭を帯びていく。
普通の迷子なら、 こんな消え方は絶対にしない。
もう一度振り返る。
さっき通った参道には相変わらず、
無邪気に祭りを楽しむ人々が行き交っていた。
あまりにも、 残酷なほど 「日常」 の光景だった。
***
江戸川君が雑踏の闇へ消えていく。
私はその背中を見送り、 再び母親に視線を戻す。
母親は激しい動悸に肩を揺らし、
端末を握る指先は白く強張っている。
やがて巡回中の制服警官が駆けつけ、
すぐに無線を飛ばした。
緊迫はより周囲に伝播する。
数分と経たずに人混みを割り、
目暮警部と複数の刑事たちが姿を現した。
母親の必死の訴えに、
子供たちが証言を重ね合わせる。
___やっぱり。
私はポケットの中で素早く指を動かした。
***
ポケットの端末が微かに震えた。
画面を見ると、 灰原からの短い報告だ。
しかしその内容に、 自ずと足が止まる。
「 母親の証言に矛盾はないわ。
手を離したのは財布を取り出す数秒。
吉田さんたちの言い分とも一致。
恐らく、 自発的な失踪の可能性は低いわ。」
財布を取り出すわずかな隙。証言の合致。
迷子、 誘拐、 交通事故。
脳内で幾つもの仮説を組み立てては、
即座に瓦解していく。
どれも現実の状況と決定的に噛み合わない。
痕跡があまりにも皆無なのだ。
非現実的な思考を振り払おうとした、 その時。
掌の中で、 二度目の振動。
表示された名前を目にした瞬間、 思考が氷結する。
熱を帯びた祭りの狂騒の中で、
その通知音だけが耳を刺すほど鮮明に響いていた。
俺は小さく息を吐き出し、 画面をスワイプした。
実は、 コメディの方が好きなんですよ。
元太に 「 うな重の屋台どこだ!? 」 とか
言わせてみたかった…😭
あと博士の口調が鬼ムズいです。
交換宣伝です。
予定より一日遅れて申し訳ございません💦
本物の劇場版のようなストーリー展開で
オリジナルとは思えない完成度です。
文章力も凄いのでぜひ見に行ってください‼️











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。