第5話

第5話:すれ違いのその先に
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2025/07/12 14:35 更新
デビューが決まったあの日から、世界は目まぐるしく変わった。

新グループ「INI」としての活動が本格的に始まり、レッスン、撮影、取材、リハーサル……時間がいくらあっても足りないほどのスケジュールが、連日彼らを飲み込んでいった。

夢のような日々。
だけど同時に、それは“現実”でもあった。



「大夢、次スタジオCだって」

「……了解。ありがとう、京介」

短く返して笑うけど、京介はその表情の陰りにすぐ気づいていた。

忙しさのせいか、最近、大夢とまともに話す時間が減っていた。
打ち合わせでも、控室でも、ほんの短い挨拶しか交わせない。

あんなに近かった距離が、少しずつ遠のいていく。

「……これでいいのかな、俺たち」

京介はひとり、控室の椅子に深く腰をかけ、ため息をついた。



一方の大夢もまた、同じことを思っていた。

「俺は、今の自分に何ができてるんだろう」

ダンス未経験だった自分が、他のメンバーに追いつこうと必死に食らいつく日々。
ボーカルでもっと貢献したいと思いながら、理想と現実のギャップに焦る。

そんな中、京介はいつも安定していて、スタッフやファンからの評価も高い。
喜ばしいはずなのに、心のどこかにざらりとした感情が残っていた。

(このままじゃ、京介に置いて行かれる気がする)

自分でも気づかぬうちに、言葉数が減り、距離ができていた。



そして、ある日。
雑誌の合同インタビュー中、ふたりは久々に真正面から会話を交わした。

「大夢くんと藤牧くんって、オーディション中から仲良かったですよね?」

記者の質問に、京介は笑って答えた。

「はい。最初の歌声聴いた時から、ずっと特別だと思ってました」

隣でその言葉を聞いた大夢は、一瞬、心がざわついた。

“特別”――その響きに、嬉しさと戸惑いが同時に押し寄せてくる。

インタビューが終わり、機材が片付けられる中、ふたりは自然と隅の壁際で向かい合った。

「……さっきの、本気で言った?」

「え?」

「“特別”って言葉」

「……もちろんだよ。何も変わってない。俺は今でも、大夢の声が一番好きだ」

「……でも、最近あんまり話してないよね」

「それは……俺も思ってた。けど、大夢が忙しそうで、声かけづらくて」

「……同じこと考えてたんだね」

ふたりの間に、重たい沈黙が降りた。

でも、そのあとで京介が静かに口を開いた。

「大夢。俺、きっと君に甘えてたんだと思う。
一緒にいることが自然で、当たり前になってて。
でも、当たり前なんかじゃなかった。ちゃんと、伝えないとって、今日思った」

「……俺も、そう思った」

ふと、大夢の声が震える。

「なんかさ、京介が前に進んでくの見て……嬉しいのに、怖くなってた。自分が追いつけるのか、不安で」

「俺だって、大夢が必死で努力してるの知ってるよ。自分を責めないで」

そう言って、京介はそっと手を伸ばし、大夢の指先に触れた。

「距離ができたとしてもさ。俺は、どんな大夢でも、大好きだよ」

その言葉に、大夢の目から、ふわりと涙がこぼれた。

「バカ……そういうの、急に言うなよ」

「……泣くほど嬉しかった?」

「泣いてねーし」

「泣いてるし」

笑いながら、ふたりは自然と肩を寄せ合っていた。

離れてしまった距離は、こんなにも簡単に、温もりだけで埋まる。



数日後、INIの初ステージのリハーサル。

ふたりは並んで立ち、マイクを握った。

歌い出し、最初に重なるのは、彼らのハーモニー。

「君がそばにいるなら、それだけでいい」

そのフレーズが、まるで本当の想いのように響き、観客席のスタッフが息を呑む。

ステージを終えたあと、控室でふたりは視線を交わした。

「……ねぇ京介」

「うん?」

「これからも、俺の隣で歌ってくれる?」

「……もちろん」

手を伸ばせば、そこにいる。
隣にいれば、わかる。

心はもう、すれ違わない。

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