第27話

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2024/03/28 00:36
🐥side


俺が絵画教室を辞めるまでの間、俺達は週1回の絵画教室で仲を深めていった。

泥だらけのクソガキと、いいとこのお坊ちゃまの 凸凹コンビ。

育つ環境は違えど、なぜか俺達は馬が合った。

俺のクソガキ武勇伝を面白おかしく聞かせると、テヒョンは腹を抱えて笑い転げ、口を動かさないで筆を動かしなさい!って先生に怒られたりした。

幼かった俺は、絵画教室を辞めてもテヒョンに会えると思っていたんだ。

学区が違うだけで、こんなにも遠い存在になるなんて、幼かった俺には想像すら付かなかったんだ。










テヒョンから連絡が入ったのは

街で数年振りに再開してから数日経った頃…。
テヒョン スマホ(カトク)
テヒョン スマホ(カトク)
連絡遅くなってごめん!
この前は久々に会えて嬉しかった!
ジミン スマホ(カトク)
ジミン スマホ(カトク)
連絡待ってたよ!
お前と会って話したい!
いつ空いてる?
テヒョン スマホ(カトク)
テヒョン スマホ(カトク)
今週は予定が埋まってて。
来週の火曜なら空いてる。
ジミン スマホ(カトク)
ジミン スマホ(カトク)
OK!じゃあ火曜日で!
学校終わったら連絡するね!
テヒョン スマホ(カトク)
テヒョン スマホ(カトク)
了解🫡




翌週の火曜日。

放課後になって早速テヒョンに連絡を入れた。


ジミン スマホ(カトク)
ジミン スマホ(カトク)
今、学校出たよ!
どこで待ち合わせする?

暫く経ってテヒョンから返信が来た。
テヒョン スマホ(カトク)
テヒョン スマホ(カトク)
ごめん…。
実は体調悪くて学校休んだんだ。
今も寝てて、連絡遅くなってごめん。
ジミン スマホ(カトク)
ジミン スマホ(カトク)
大丈夫か?
熱でもあるのか?
テヒョン スマホ(カトク)
テヒョン スマホ(カトク)
うん…風邪かな。
寝てれば治ると思うから。
ジミン スマホ(カトク)
ジミン スマホ(カトク)
病院は?
ちゃんと食事取れてるか?
テヒョン スマホ(カトク)
テヒョン スマホ(カトク)
病院は行ってない。
食欲もなくてさ。
ジミン スマホ(カトク)
ジミン スマホ(カトク)
オンマいるんだろ?
長引くと大変だから
早めに病院行った方がいいぞ
テヒョン スマホ(カトク)
テヒョン スマホ(カトク)
オンマはいない。
俺一人暮らしだから。
は?一人暮らしって何?

だってまだ中学生だろ?
ジミン スマホ(カトク)
ジミン スマホ(カトク)
なんの冗談?
一人暮らしな訳ないだろ?
テヒョン スマホ(カトク)
テヒョン スマホ(カトク)
冗談じゃないよ。
本当に1人なんだ。
なんで…?

テヒョンが様変わりしてたのと何か関係があるのか?
ジミン スマホ(カトク)
ジミン スマホ(カトク)
……今も1人なのか?
テヒョン スマホ(カトク)
テヒョン スマホ(カトク)
うん
ジミン スマホ(カトク)
ジミン スマホ(カトク)
わかった。
今から俺が行くよ。
何か欲しい物ないか?
買っていくから。
テヒョン スマホ(カトク)
テヒョン スマホ(カトク)
ありがとう。
でも大丈夫だよ。
慣れてるから。
そんな事に慣れるなよ…。

どうなってるんだ、あいつは…。
ジミン スマホ(カトク)
ジミン スマホ(カトク)
俺が大丈夫じゃない。
心配だから行く。
お前の顔見て安心したら帰るから。
住所送って。
それからすぐにテヒョンから住所が送られてきた。

俺はスーパーに寄って、適当に食料や飲み物を買い込んで、その住所に向かった。



ジミン
ジミン
わぁ…めっちゃ豪邸じゃん…。マジでここで一人暮らししてんのか、あいつは…

中学生が一人暮らしするには、あまりにも不自然な佇まいの一軒家。


高い塀に囲まれた家は、外からは様子が全くと言っていい程見えない。

テレビでよく見る芸能人の家のようだった。



インターホンを鳴らすと、すぐにテヒョンが対応してくれて玄関までの石畳みを歩いて進む。

庭は手入れされずに雑草が生い茂り、人の気配がせず、違和感しか感じられなかった。



玄関のドアが少しだけ開き、中からテヒョンが顔を出す。

テヒョン
テヒョン
いらっしゃい…
ジミン
ジミン
おぉ、大丈夫か?寝てなきゃダメだろ?
テヒョン
テヒョン
だって…ジミンが来るから鍵開けなきゃだろ?
ジミン
ジミン
……そりゃそうだ(笑)
テヒョン
テヒョン
散らかってるけど…上がって?
ジミン
ジミン
うん、お邪魔します
テヒョン
テヒョン
あ、誰もいないから気を使わなくていいよ
ジミン
ジミン
……
テヒョン
テヒョン
ごめんね、掃除してないんだ。
靴下が汚れるからこれ履いて?

来客用のスリッパを俺の足元に置き、自分は薄暗い家の中を裸足でペタペタと奥へ進んでいく。
テヒョン
テヒョン
その辺に座って…
ジミン
ジミン
あ、これ…適当に買ってきたから…

スーパーで買ってきた物をテヒョンに渡すと「ありがとう」と受け取りニコリと笑った。

その笑顔には力がなく顔色も優れない。

ジミン
ジミン
熱はあるのか?
テヒョン
テヒョン
うーん…どうかな…
多分あると思うんだけど
ジミン
ジミン
体温計は?
テヒョン
テヒョン
……どこにあるかわからなくて
ジミン
ジミン
ちょっとごめんな、触るぞ

テヒョンの頬や首元を触る。

触った所で「熱いな」って思うだけで、今テヒョンがどのくらい熱があるかなんて、俺にはわかるはずもなかった。
ジミン
ジミン
俺よりも熱いから、熱はありそうだな。
薬あるのか?
テヒョン
テヒョン
うん…なんかその辺にあったやつ…。
よくわからないけど飲んだよ。
ジミン
ジミン
いつから具合悪かったの?
テヒョン
テヒョン
昨日の夜から…
ジミン
ジミン
ずっと1人だったのか?
テヒョン
テヒョン
そうだよ
ジミン
ジミン
……
テヒョン
テヒョン
慣れてるから平気だよ
ジミン
ジミン
なぁ…ご両親は?
なんでお前は1人で暮らしてるの?
テヒョン
テヒョン
……
ジミン
ジミン
あ…ごめん、立ち入り過ぎだよな。
テヒョン
テヒョン
ううん、そんなんじゃなくて…何から話したらいいのかなって考えてた。
ジミン
ジミン
……
テヒョン
テヒョン
あのね、俺…捨てられたんだ
ジミン
ジミン
え?
テヒョン
テヒョン
家とお金は援助するから…
1人で生きてけって
ジミン
ジミン
だ、誰がそんな事っ!!
テヒョン
テヒョン
……伯父さん
ジミン
ジミン
伯父さん…?
テヒョン
テヒョン
うん
ジミン
ジミン
いや、そうじゃなくてさ、テヒョンのご両親はどこに行ったんだよ
テヒョン
テヒョン
俺のパパとママはいないよ
ジミン
ジミン
……いないって?
テヒョン
テヒョン
もう、死んじゃったから
ジミン
ジミン
……っ

テヒョンは、少しずつゆっくりと自分の事を話し出した。

穏やかに優しく話すテヒョンとは裏腹に、話してる内容は耳を塞ぎたくなるような内容だった。

俺にはあまりにも非現実過ぎて、どこまで本当の話なのかわからなくなってしまって…。

でも、この前再会した時にテヒョンから感じた「闇」を思うと、納得せざるを得なかった。
ジミン
ジミン
あの…いつも一緒に絵画教室に来てた人は、テヒョンのオンマじゃなかったんだな…
テヒョン
テヒョン
うん…あの人が、ユラさん…
ジミン
ジミン
そっか…
テヒョン
テヒョン
……引いた?
ジミン
ジミン
引いたってより…あまりにも、俺と生きる環境が違い過ぎて驚いてる
テヒョン
テヒョン
あはは、だよね。中2から1人で生きてるってすごいよね。
ジミン
ジミン
あのさ、その伯父さん?がやってる事は、保護責任者なんちゃらってやつに引っかかるんじゃないの?
テヒョン
テヒョン
うーん…そうかもね。実際あの日、伯父さんが家を出て行ってからは1度も会ってないし。たまに伯父さんの秘書って人が様子を見に来るくらいで…
ジミン
ジミン
通報して伯父さんを懲らしめてやれば!?
テヒョン
テヒョン
そんな事したら俺はまた施設に戻されるだけだもん。伯父さんも世間体を気にしてるから、あれこれしてくれるし、お金だって必要以上に与えてくれる… 伯父さんを懲らしめるだなんて、そんな考えは微塵もないよ。
ジミン
ジミン
そんなお人好しだから伯父さんに利用されるんだよ…
テヒョン
テヒョン
そうだね…俺は結局利用されたのかもしれないね。でも期待なんてされた事のない俺には、伯父さんの跡取りになれた事が嬉しかったんだ。期待に応えたいって…その一心だったんだよ…
ジミン
ジミン
そんな寂しい事言うなよ…
俺が泣きたくなる…
テヒョン
テヒョン
誰かに関心を持たれたり期待されるって有難い事なんだよ、ジミン…
ジミン
ジミン
……そうかもな
テヒョン
テヒョン
きっと伯父さんは、俺が大学を卒業するまでの間に、会社の後継者を俺から伯父さんの実の息子さんにすり替えるつもりなんだと思う。じっくり時間をかけて、周りの人達から僕の存在を消すんだろうな…
ジミン
ジミン
……
テヒョン
テヒョン
会社の方にも、ユラさんの事はセクシャリティに伝わってるんだって
ジミン
ジミン
そうなの?
テヒョン
テヒョン
うん…前に秘書さんに聞いた事があるから…だいぶ噂になってるって…
ジミン
ジミン
……
テヒョン
テヒョン
俺との事は絶対に漏れないように、ユラさんに全部被せて処理したみたいだけど
ジミン
ジミン
酷いな…
テヒョン
テヒョン
……うん







ジミン
ジミン
あ、この前の女の人… あの人は誰なの?
テヒョン
テヒョン
あー、あの人はね…えっと名前なんて言ったかな?
ジミン
ジミン
え?何それ
テヒョン
テヒョン
あの日初めて会ったからさ
ジミン
ジミン
マジで!?それであの距離感なのっ!?
テヒョン
テヒョン
なんかおかしかった?
ジミン
ジミン
なんか、すごいお前にベタベタしてさ…俺睨まれたんだけど。
テヒョン
テヒョン
あぁ…そうなの?

テヒョンは、まるで他人事のように自分の事を話している。

客観的に捉えないと、自分の置かれている状況を受け入れられないんだろうか。




淡々と抑揚もなく話す姿に

俺は胸が苦しくなったんだ。

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